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復刻版衝動 ~己と1つの和太鼓と向き合う日々~ by酒井智彬

日時:令和2年1月21日
執筆者:酒井智彬
タイトル:復刻版衝動 ~己と1つの和太鼓と向き合う日々~

皆さま、こんにちは!
酒井智彬です♪

突然ですが、
一口に和太鼓といってもたくさんの種類の楽器があります。

長胴太鼓、締め太鼓、桶胴太鼓、大太鼓等々・・

それぞれの楽器に特性があり、時に太鼓の皮の種類も違ったり。
和太鼓彩の舞台においてもそれぞれの音が組み合わさり、出来上がっています。

そんなそれぞれに魅力のある和太鼓ですが、

僕が一番好きなものは、

『長胴太鼓』

です。

THE 和太鼓といえばこの長胴太鼓!!
皮へ加わった力という振動が、木をくり抜いた胴の中で反響する音、そしてその胴自身が振動で揺れている音、自然のものからできた深い音色。

この音色が大好きで、愛して止みません。

この楽器をどのように打てば、心地よい音色が出るのか、一番大きな音が出るのか、一番小さな音が出るのか、太鼓面のどこを打てばいいのか・・

また、和太鼓彩には長胴太鼓だけを用いて演奏する「三心不乱」という楽曲があります。

この楽曲を通して長胴太鼓と向き合った一人の青年がいました。

今回は2017年に行われた「衝動復刻版」にて“三心不乱”という楽曲を演奏した時のことを振り返ります。


〜2017年〜

和太鼓彩に入団して1年という月日が流れようとする頃、
とある公演が行われようとしていた。

復刻版「衝動」公演である。
「衝動」は元々2012年実施した和太鼓彩の初のツアー作品であった。

この2012年は、僕自身はまだ高校生であり、生で見に行くことは叶わなかったが、DVDを購入し、何度も繰り返し見ていた記憶がある。
先輩方がプロを目指し、和太鼓もっとたくさん演奏したいんだ、たくさんの人の前で演奏したいんだという思い、“衝動”を込めた作品に、感動し、自分もこんな風に演奏したいと憧れた。

〜そんな衝動公演を再び行う〜

僕自身、2016年ゼンダイミドン公演でデビューし、オルフェウスでの毎月LIVEを経験し、そして「Q」公演を乗り越え、ただただ単純に和太鼓に向き合っている毎日が最高に楽しかった。

しかしながら、それと同時に、“悩みや葛藤”も生じていた。

デビューして一年が経ち、新人という枠から外れ、
これから自分がどんな太鼓奏者になっていきたいのか、分からない。

もっとお客様に太鼓の魅力が伝わるような演奏をしたい。

どんな演奏をしたら楽しんでもらえるのだろうか。

自分の演奏に満足がいかない。

もっと上手くなりたい・・・

上手くなれば、もっと楽しいんでもらえる幅が増えるよな・・

もっと練習したい
もっと上手くなりたい!!!
お客様に楽しんでもらえるように、喜んでもらえるように。

自分の中の上手くなりたいという気持ち・お客様に楽しんでいただきたいという気持ちを思いっきりぶつけた公演にしようと決心した。


この公演の中でも、特に力を入れた楽曲がある。

『三心不乱』である。

三人の演者がそれぞれ一つずつ平置きの長胴太鼓を用いて演奏する和太鼓彩の代表曲の一つである。
激しく打ち込む演目ではあるが、
楽曲の名前の通り、三人の演者が心を乱すことなく、息を合わせて演奏する楽曲である。
他の楽曲より演者の数が少ないため、一人ひとりの技量や正確な打ち込みが求められる。

この楽曲を演奏するメンバーに入っていた。

この楽曲を演奏するにあたり長胴太鼓の打ち込みを徹底的に研究した。

和太鼓彩メンバーのそれぞれの腕の振り方やバチへの体重の乗せ方、

他の和太鼓チームの打ち込み方、

そして太バチで打ち込む日本各地に伝わる伝統芸能の打ち込み方まで。

その中でも参考になったのが、三宅島神着地区に伝わる神着木遣太鼓である。
神着木遣太鼓は長胴太鼓を横にして打つが、彼らの足腰の踏ん張り方、そして腕全体を使った究極の一打は、平置きの長胴太鼓の打ち込みに通ずる部分が非常に多かった。

彼らの動きを自分の長胴太鼓の打ち込みへトレースしていきます。

身体のしなりを腕に伝え、その力をできる限り無駄なく太鼓の鼓面へ伝える。

下半身に踏ん張りによって、上半身の力をとことん抜く。
そうすることで力まず、スピードの乗った一打を繰り出すことができる。

こうして当時の僕の長胴太鼓の打ち込みは公演に向け、完成していく。


迎えた本番。
三心不乱は、センターである春日さんの緊迫感のある打ち込みから始まる。

物音ひとつない緊迫した空気の中に春日さんの渾身の打ち込みが刻みこまれていく。

同時に、春日さん太鼓の振動によって自分の身体・心が熱くなっていくのが分かる。
太鼓を演奏したい・お客様に楽しんでもらいたいという心からの“衝動”が自分を突き動かします。

さぁ本番だ。

春日さんに負けじと、これまで繰り返し反復してきた動作によって太鼓を打ち込む。

お互いの音を身体に刻み込み、それぞれが気持ちのこもった一打を繰り出していく。

打ち込む同時に自分の体力が削られていくことが分かる。
続く連打で頭の中が真っ白になるが、打ち込み続ける。
体力の計算はしない。

身体に染み付いたリズムをただただ目の前の白い面へ打ち込んでいく。

意識が飛びそうになるが、堪え、最後の最後まで打ち込みます。

死ぬ気で太鼓を打ち込む、自分の限界まで。
太鼓の魅力を伝えたくて、そしてお客様に和太鼓彩の舞台を楽しんでほしくて。

気付いた時には最後の一打だった。
やりきったという雄たけびを三人の男たちがあげる。

立っているのが精一杯だが、お客様の割れんばかりの拍手が身体を支えます。


衝動復刻版の三心不乱をやりきったという経験が、僕に自信を与えてくれ、次の舞台への後押しとなります。

そしてその二年後、長胴太鼓の一個打ちの楽曲『ff-fortissimo-』へ向かっていくのである。
またそれは別のお話。

ありがとうございました。

和太鼓彩
酒井智彬

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