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星に願いを、凛に祈りを by渡辺隆寛

日時:令和2年1月19日
執筆者:渡辺隆寛
タイトル:星に願いを、凛に祈りを

和太鼓彩には3部作ツアーというものが存在する。
「衝動」、「COLORS」、そして今回ご紹介する「凛」。
僕が初めて参加した大規模ホールツアーである。

今回は、まだ10代の少年が「技術」のその先にある「表現」の世界に出会った、苦悩と希望のお話。


時は2013年秋––––––。
メンバーはいつもの練習場に集まり、葛西さんから次なるツアーの詳細を受けることとなった。

「ちょっと今から話すことに、一部驚く人がいると思うんだけど、まあ聞いてて。笑」

––––はい!

「次のボス曲は三心不乱にしようと思っているんだけど、物語というか、舞台のようにしたいのよ。」

––––ほう!

「今回のツアーのコンセプトは「自信と風格」。それに見合う題材として「七夕物語」を選んだのね。」

––––ふむふむ。

「そこで、太鼓の音色で物語の情景を表す黒子役を立てて、君たちには役として太鼓を叩いてもらおうと思う。」

––––ほー・・・ん?

「「七夕物語」ってなんとなく知ってるよね?織姫と彦星がいて、二人があまりに一緒にいて仕事しなくなるもんだから、父である天帝が二人の仲を切り裂くんだけど、二人を見かねて一年に一度出会えるようにしたっていう物語なんだけどね、」

––––うん、確かにそうだ・・・
なんか嫌な予感がしてきたぞ・・・

「二人の仲を切り裂く天帝は体格からもアニキ(矢萩)にやってもらおうと思ってて…」

––––う、うん・・・。

「彦星役に、執行、佐藤、齋。」

––––––––やばい。

「織姫役として、山田、紺谷、なべっちに“女形”をやってもらおうかなーなんて。笑」

山・紺・渡「「「え?????」」」

かくして、僕の初めてのホールツアーは、「織姫」として「女形」を演じることが決まった。


そもそもなぜ「和太鼓で女形」をやることになったかは代表の今後の彩ヒストリーで語られるとして、一プレイヤーとしてこの曲が「和太鼓彩が新たな表現のステージへ旅立つ」ことを意図しているのはなんとなくわかった。

いまいちその当時は、女形=女装、というイメージでくくっていたかもしれない。
ただ練習を重ねていくにつれ、今まで意識したことのない神経を使い出した。

「つま先を残すような足の踏み出し方」、「バチ先まで気を使う腕の上げ方」、「視線」。

その全てが初体験だった。

ただガワだけで勝負するのではなく、姿勢や佇まいで勝負する。
当時、バレエの所作などをトレースしてたくさん勉強した。

冒頭一部のテンポはとてもゆっくりで、難しいフレーズがあるわけではない。
ただ一打一打打ち込んでいく中で、女性らしさ、哀愁を表現する。

付かず離れず、彦星のことを思い揺れ動く感情を表現した。

経験も技術もない中で、イメージもうまくいかず、大変苦労したのをついこの間のことのように思い出す。

ただこの経験を通してこんな考えが生まれた。

「和太鼓」がなぜ「和太鼓」たるか。
自然の木をくり抜き、生き物の皮を貼り、これまた木の棒で打つ。

全て自然のもので作り出したが故に、そこには「温かみ」がある。
その自然の「温かみ」には、「人の想い」が乗る。

「和太鼓」というのは、「気持ち」や「感情」を伝え紡ぐことができるのではないか?
それ故に、人の心を動かし揺さぶることができる。

「和太鼓」にはこんな魅力があるのでは?

この「凛」のボス曲「天心不乱」にもたくさんの感情が表現されている。
彦星への恋心、天帝の怒り、会えぬ悲しみ––––––

この表現への挑戦はもちろん和太鼓彩としても、渡辺隆寛としても大きな一歩となった。

この頃から僕は、「和太鼓」でいろんな感情や想いを表現したいと考えている。

早打ちや、変拍子ももちろん大事だと思う。ただ、それは小手先にしか過ぎない。

もっと本質は根強く、太鼓が太鼓としてあるために、「太鼓でしかできないこと」を突き詰めたときに、僕はこの境地にこそ、「和太鼓」の全てが詰まっている、そう信じてやまない。

僕は幼い頃ずっと一人で過ごして来た。
その寂しさを埋めて来たのは紛れもなくエンターテイメントで、エンタメは人の心を豊かにすることができる。
高校時代の老人ホームでの演奏(#1「君は太鼓に光り輝く」)で感じたあの気持ちは、なんとなくだがここで少し消化できた気がした。

そんな儚く切ない二人の物語は、新たな三心不乱の形として、凛ツアーのトリに披露された。
そして、この物語は「天心不乱」と名付けられ、あれから未だ披露されていない。

いつかまた、凛ツアーが再演された時、あの時とはまた違った「女形」を披露できるのではないか、と考えたりもする。
そんなこんなで、織姫衣装はとても気に入っているのだ。(当方は風水師オナベとは一切関わりはございません。笑)

こうして僕は、この凛ツアーを通して、「表現」「所作」についてこだわるようになった。
僕の太鼓に対する考え方を築き上げた舞台といっても過言ではない。

太鼓にとって迫力ももちろん魅力の一つであるが、それ以外にも数多ある太鼓の魅力を知ることができた。この考えは今も絶えず持ち続けている。
前回、イベントで叩き、大会で太鼓を叩いたが、僕らがやりたいこと、伝えたいことってなんなのだろうか。

まだ答えを見つける旅路の最中だがこれだけは言える。

『和太鼓は、人の心を豊かにすることができる。人の心を豊かにできれば、人は幸せになることができる。僕は、和太鼓で世界中の人を幸せにしたい。』

正直、この凛ツアーは初めて「奏」を初披露した舞台でもあり、どんぱぱという新曲もあるがあえて今日はここまでで話を終えようと思います。

ありがとうございました。


このツアー、アンコールに祭宴を起用したのですが、楽しくも切ない哀愁あるカーテンコールとして、とても気に入っております。
「和太鼓」紡ぐ「感情」の糸を、皆様是非これから少しだけ気にしてみてください^^

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