塩見岳大が共同生活を始めるまで by塩見岳大
日時:平成31年1月22日
執筆者:塩見岳大
タイトル:塩見岳大が共同生活を始めるまで
今日は私、塩見岳大が和太鼓彩のメンバーと共同生活するまでのお話をさせていただければと思います。
お気付きの方はいらっしゃるでしょうか?
私が和太鼓彩に加入したのは2012年4月。
そして、共同生活がスタートしたのが2012年10月。
同期である齋英俊はまだしも、
出会って6ヶ月でまさか高校和太鼓部に語り継がれる伝説的先輩、
葛西啓之と一緒に共同生活を送ることになるとは、
入団当時誰が思っただろう。
私が入団して間も無く、
和太鼓彩プロ化の話がチラチラと話題に上がるようになった。
しかし和太鼓彩についていくのがやっとの新人、塩見はプロ化どころではなかった。
とにかく演目を覚えて練習して、諸先輩方と少しずつ距離を詰め、
彩メンバーの一員になることが当面の課題であり、
プロ云々はその向こう側にある話だと思っていた。
思ってはいたが憧れはあった。
プロ和太鼓奏者としてお金を稼ぎ、
自立して生活していくという話には夢があったし、
胸は大いにときめいた。
葛西を筆頭に共同生活メンバーが当時の仕事を辞める算段を相談し、
家を探す話し合いは順次行われていたようだったが、
そこに私は参加していない。
入って数ヶ月の新人がどの口をもって
「俺も一緒に住んでよろしいっすか?」
などと言えよう。
実際には齋に誘われたりもしたのだが、
丁重にお断りしていた。
そんなこんなで、共同生活のアジトが決まってからすぐの演奏会。
演奏が終わった後、
当時和太鼓を運搬していた車、「ゴン吉」一世(現在稼働している運搬車はゴン吉二世)のハンドルを握りながら葛西は微笑んだ。
「塩見君、演奏で疲れただろうし、ここ駅から遠いから、送って行くよ」
嗚呼、なんと親切な先輩なのだ。
演奏後の後輩を労わるその寛大な器を前にし、
敬愛の念をもってお言葉に甘えることにした。
そして、ゴン吉に乗った私は気がつけば亀有の共同生活宅にいた。
…違和感はあった。
そもそも葛西が私を「塩見君」と呼ぶ時は、
なんらかの悪意を孕んでいる時か、
本気の説教をする時くらいだ…
出発した時点で、
車は最寄駅の方向へは向いていなかったし、
走行時間もやたらと長いので、
私は度々尋ねる。
「あれ、駅こっちでしたっけ?遠くないですか…?」
その度に、大丈夫大丈夫、と軽くいなされる。
何が大丈夫なものか。
しばらくして再び尋ねる。
「あきらかに駅に行く距離じゃないですよね…?」
「あぁ、家まで送ってくよ」
と、葛西は当時神奈川県に住んでいた私の話を適当にあしらいながら、
車は都心を駆け抜け東へと進んでいく。
そして気がつけば、亀有だ。
齋が書いたヒストリーページ(https://wadaiko-sai.com/archives/history/181026)ではさも、
一緒に共同生活を始めたかのように記されているが、
その実、私の共同生活宅初訪問は、
強制連行同然の結果であった。
その日はまだ引っ越して間もないメンバーの荷解きを手伝い、
日が落ちた頃に亀有の商店街へと歩き出し、
夜御飯をご馳走になった。
そして共同生活宅へと戻った後は、
酒をあおりながら夢を語りあった。
なんだかんだと言いながら、
それはとても幸せな時間だった。
まるで秘密基地のように自分たちのアジトを構え、
まだ見ぬ未来に思いを馳せて、
無限の可能性に酔いしれる。
大いに笑って、大いに飲んだ。
気がつけば終電も終わり、
酔いも十二分に回った頃、
葛西は白々しい顔付きで腕時計を見る。
「あれ、塩見君。家に帰りたいんじゃなかったっけ?帰らなくて良いの?」
葛西節ここに極まれり!
言いたいことは色々あったが、
お酒と一緒に飲み込んで、
今日はここに泊めてくださいと頼み込んだ。
これが私の共同生活宅一泊目の話だ。
それから演奏や練習が続く日は共同生活宅に泊まり、
夜は酒を飲み、夢を語る。
それが私の日常生活に組み込まれるようになっていった。
時には共同生活宅から大学に通ったり、
大学から共同生活宅に帰ったり、
と徐々に共同生活宅に泊まる頻度は増えていく。
葛西からパワーポイントの使い方を教わりながら、
COLORS公演の印刷物デザインを始めた頃には、
自宅と共同生活宅に泊まる割合は逆転していた。
日常生活の中に和太鼓彩が在るのではなく、
和太鼓彩の中に日常生活が在るようになった。
初めは無理矢理連れていかれた共同生活宅が、
私の生活の中心になっていたのだ。
そして2013年4月、
共同生活開始から6ヶ月後、
和太鼓彩はプロとして飛び出すことになる。
そのメンバーの中に私が居たのは、
もしかしたら共同生活宅へと強制連行された日があったからかもしれない。
以上、塩見岳大が和太鼓彩のメンバーと共同生活するまでのお話でした。
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