「奏」制作秘話 by葛西啓之
日時:令和元年7月20日
執筆者:葛西啓之
タイトル:「奏」制作秘話
みなさまこんにちは。葛西です。
時は2008年、夏。
半年後の2009年1月に、晴れて第一回単独公演の実施が決定した和太鼓彩。
夢だった単独公演を大成功に終わらせるために、そして、「これで最後」と決めた和太鼓人生の有終の美を飾るために、葛西青年はとある大曲づくりへと踏み切ったのでありました。
そう、この曲こそが、現在も使われている和太鼓彩の代表曲「奏」です。
今日はそんな、「奏」の制作秘話をお送りしたいと思います。
どうぞお付き合いください。
(めっちゃ長いです。ご覚悟ください。笑)
さて、そんなわけで、大曲づくりに取りかかった夏頃。
まずは曲のコンセプト作りから始めたのですが、私にはすでに明確なイメージがありました。
長生淳さん作の「楓葉の舞(ふうようのまい)」という曲です。
以前のヒストリーにも書かせていただきましたが(https://wadaiko-sai.com/archives/history/181012)、大学に入学し、吹奏楽サークルに加入したわたくし。
そこでこの、「楓葉の舞」という曲に出会いました。
なんというか、口下手で申し訳ないのですが、とても“壮大な”楽曲でして、初めて聴いた時に大変感銘を受けたことを覚えています。
私はこの曲でシンバルを担当させていただいたのですが、クライマックスのシーンでシンバルを打ち鳴らす時の気持ち良さたるや。
さらに、和楽器は何一つ使っていないのに、どこか和風な感じがするのです。聴いていると、どこか懐かしくなるような、切なくなるような・・・なんとも言えない感情になります。不思議也。
そんなわけで、この曲にどんどんのめり込んでいって、引退公演では最後の楽曲として演奏を致しました。
まさに、「人生の思い出に残っている一曲」、ですね。
そして、この出会いを経て、私はとある思いを抱くようになりました。
「和太鼓で、楓葉の舞を超える “壮大な曲” を演奏したい」
と。
和太鼓の演奏というと、どうしても「迫力がある」とか「力強い」というイメージが強いですよね。
逆に篠笛を入れると、篠笛のメロディーを際立たせるために太鼓は小さく叩かなければならず、「静かな曲」になりがちです。
要するに、和太鼓演奏において「壮大な」という枕詞はなかなか付きづらいわけですが、「楓葉の舞」にインスピレーションを受けた私は、和太鼓でも、いや、圧倒的音圧と迫力もつ和太鼓だからこそ、吹奏楽以上に「壮大な」楽曲を演奏できるのではないかー
ある種根拠のない確信めいたものを胸に携え、曲作りに着手していったのであります。
まずは、中心となるメロディー作りから。
・・・なのですが、正直言うと、どうやって奏のメインメロディーを作っていったのか、実はあまり記憶にないのです。
なぜか頭の中に、「タタタータータータタタータタタ、タタタータータータタタ〜♪」というメロディーがありまして、奏のメインメロディーはこれだ!
と決めていたのです。
このメロディーを初期メンバーだった林くんや齋くんに伝え、篠笛で吹いてもらい、さらにはハモリを考えてもらって、サビとなるメロディーを作っていきました。
(とはいえ私がスーパー音痴なので、私の口ずさんだメロディーを譜面に落とすのは大変苦労したそうです。笑 *齋くん談)
そうこうしてメインメロディーが完成したのですが、大曲を作る上で、メインメロディーだけではどうにも寂しいもの。
もう一つ肝となるメロディーが欲しいな〜と思っていたのですが、そんな時にもう一つ、インスピレーションを受けたものがあります。
当時放送していた、NHK大河ドラマ「篤姫」のサウンドトラックです。
葛西家は昭和の家庭のため、父が絶対的なテレビのチャンネル権を持っていたのですが(稀に姉も保持。弟の私にチャンネル権が来ることは皆無でした笑)、夜は決まってナイター中継と大河ドラマでした。
とはいえ私も野球と大河ドラマが大好きなので&当時主演を務めていらっしゃった宮崎あおいさんも大好きなので、毎週楽しみに見ていたのですが、そこで「ビビッ」ときたメロディーに出会います。
大変残念ながら、曲名まで覚えていないのですが、とても素敵なメロディーだな〜と思い、その曲を参考に、奏のメロディーを作り込んでいきました。
これが、最近ではあまり演奏していないのですが、10分verの途中の静かな所になります。
*(参考)このシーンです。
ちなみに余談ですが、私は曲を作るときに、「これだ!」と思ったリズムやメロディーをメモったり録音したりせず、あえて頭の中だけで留めておくようにします。そして一晩寝て、朝起きると、頭の中にあったものがうろ覚えになっているので、そこに自分なりの解釈を加えるようになります。
そうすると、「なんとなく雰囲気は参考にしているけど、細かいところは違う、独自の音楽」が完成します。
音楽においてのみならず、何においても「パクリ」は禁物ですから、そのまま使用してはいけません。しかし一方で、「創造とは、何かと何かの融合でしか生まれない(=0からの創造など、この世には存在しない)」というのも確かでして、いきなりゼロベースで物を創るのは不可能です。やはり、参考となる何かしらのベンチマークが必要となります。
その時に「ベンチマークとなる曲を、あえてうろ覚えにするようにする」という方法を使うと、自分の解釈を加えるスペースが生まれて、うまい具合に独自のものが作れるので、オススメです。
逆に完全に記憶してしまうと、どうしてもそれに引っ張られて、ベンチマークから脱却することが難しくなってしまいます。
デジタル機器に頼って、何もかも記憶・記録してしまうことが必ずしもいいというわけではない、ということですね。
何事にも“余白”が必要なのであります。
*稀にうろ覚えすぎて、雰囲気すら思い出せないことがあるので要注意。笑
さて、話が逸れてしまいましたが、こうして、メインとなる笛パートが完成していきました。
次はいよいよ、太鼓です。
太鼓は、もう何から話せばいいか・・・というくらい色んな想い、シーンが込められているのですが、まず一番考えたことは、「縦の動きと横の動き」です。
これはどういうことかと言いますと、「太鼓の迫力」と「和の雰囲気・風流・雅な動き」を一曲の中に共存させたい、という試みになります。
上述の通り、篠笛があるからといってただ静かに叩くだけではなく、「太鼓ならではの迫力・音圧も入れたい」けれど、「ただの迫力の曲にしたくない。壮大な曲にしたい」といった背景から、「迫力の動き」と「雅さを感じる動き」を共存させるために、リズム・配置を考えていきました。
その主たるものが、「長胴太鼓での1個打ち」と、「セットでの3個打ち」の共存です。
長胴太鼓の1個打ちでは、とにかく“縦に動く”ことを重視し、和太鼓の「迫力・音圧」を存分に出す。そして何より、「彩メンバーが思う存分、がむしゃらに叩けるリズム」を意識して制作しました。
余談ですが、この「縦の動き」を出すために、和太鼓彩の楽曲の中で奏だけ、手のあげ方が違うのです。
(通常の曲では指を解放して、バチを重力に任せて下に降ろしながら腕を上げますが、奏では、バチを握りこんだまま、天を突き刺すようにバチをあげます。うーん、伝わるかしら?笑)
そしてセットの3個打ちでは、長胴太鼓とは違って“横に動く”ことを重視。
迫力がありながらも、どこか雅な雰囲気を感じられるような、優雅な打ち方を意識してリズムを作っております。
この「縦の動き」と「横の動き」、そして篠笛のメロディーにより、目指していた壮大な「奏」の全体像が見えてきました。
ただの「迫力がある」曲でもない。
とはいえ、篠笛をメインとした「静かな」曲でもない。
和太鼓の圧倒的な迫力・音圧と、和楽器が持つ独特の優雅さ・風流が融合した、私の目指す「壮大な」曲です。
最後にアクセントして、「楓葉の舞」でも自身が演奏したシンバルを加えて、完成となりました。
当時は、しめて12分程度の楽曲だったと思います。
当時の私は譜面が書けなかったので、この12分の曲を全て頭の中で作っていました。いはやは、なぜそんなことができたのか、今となっては不思議でありません。笑
こうして完成した「奏」。
練習を重ね、2009年1月9日。初めて陽の目を浴びました。
せっかくなので、初披露時の映像をちょこっと公開。
はい、こんな感じでございました。
(長胴太鼓1個打ち(佐藤くんと執行くん)が、照明が暗くて見辛いですね・・・すみません><)
まだまだ粗々で、学生!という感じの演奏ですが、気持ちはめちゃくちゃに込もっていました。
何より私はこのライブで和太鼓彩を引退、和太鼓と決別する心づもりでしたので、私にとっては「最初で最後の奏」となります。
この日のために約半年間かけてきた全ての想いを、この12分にぶつけたのでありました。
いやはや、なんとも、一生記憶に残る「奏」ですね。
最後に、以前Twitterに書きましたが、ラスサビで私が3個打ちから、1個打ちに移行します。
ここまで長胴2人:セット3人、の比率で曲が進行してきましたが、最後のサビでは私が1個打ちに移行し、長胴3人:セット2人:、と比率が逆転するのです。
つまり、最後は横の動きよりも縦の動きが強くなるのです。。
「和太鼓の真骨頂は、やはり縦の迫力である」という私個人の想いの表れですね。
そんな細かいところにも、ぜひ注目してみてください^^
(参考)
https://twitter.com/kasai_sai/status/1127633955400945665
さて、そんなわけで、「奏」制作秘話をお送りしました。
大変長くなってしまいすみません・・・
まだまだ書ききれない部分がたくさんありますので、時期を見て第二弾を書きたいと思います。
次回は、第一回単独公演のその他の楽曲も含め、当日の様子を思い出しながらレポートしたいと思います!
ではでは、今日はこの辺で。
次回もお楽しみに!
<おまけ>
こちらが、直近の演奏の「奏」。
いやはや、曲も技量も、進化したものですな〜
*2019年5月11日 「SAILAND 人生行路篇」より
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