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和太鼓で紡ぐ源氏物語2 by葛西啓之

日時:令和2年2月23日
執筆者:葛西啓之
タイトル:和太鼓で紡ぐ源氏物語2

みなさまこんにちは。 再び登場、葛西です。

今回も引き続き、2020年2月8日に行われた「葛西啓之生誕祭」の模様を振り返っていきたいと思います。

前回のヒストリーでは、「そもそもなぜ、ソロライブで源氏物語をやろうと思ったか」についてつらつらと語らせていただきました。
本稿ではついに、その全貌に迫っていきたいと思います・・・!!

さて、今回ご用意した曲は下記の8曲。

1. 風流男(みやびお)と偸(ぬす)む恋
2. 空をみだるるわが魂(たま)
3. 白い貝
4. 慟哭(どうこく)の声
5. あけぼのの空の色が染まるように
6. 生涯の夢も恋も
7. 朧月夜(おぼろづきよ)に迷う道
8. 関吹き越ゆる須磨の浦風

ではでは、一曲ずつ、解説したいと思います!
超長いですが、よろしければどうぞお付き合いください〜^^

【1. 風流男(みやびお)と偸(ぬす)む恋】

まずはオープニングということで、源氏物語の雅な世界観を表現した曲になっております。
低音太鼓(向かって左側)を光源氏、締太鼓(向かって右側)を六条御息所、長胴太鼓(中央)を葵の上、桶胴太鼓(左から2番目、右から2番目)を空蝉や夕顔、朝顔の君・・・など様々な女性に見立て、光源氏と数々の女性との艶やかな恋を表現しております。
ここでのポイントは、2曲目に向けて意図的に、締太鼓(六条御息所)を打つ回数を減らしていること。
六条御息所の恋の重さに耐えかねて徐々に心が遠のいていってしまう光源氏、そしてそれに気付きながらも、高貴な女人ゆえ表立って咎めることもできず、自らのプライドとの狭間で揺れ、葛藤する様を表現しました。

原作で六条御息所が「あの人(光源氏)は恋を偸んでいるにすぎないのだ・・・」と心の内で語っているシーンがありまして、「恋を偸む」という表現がとても印象的だったので、タイトルにも使わせていただきました。

【2. 空をみだるるわが魂(たま)】

締太鼓のみを使った一曲。
この曲では、苦しみ・葛藤の先に、ついに我を忘れて生き霊となってしまう六条御息所を表現しています。
「生き霊」といってしまうとちょっと怖い感じもしますが、「空をみだるるわが魂」とは、なんとも艶美な表現ですな。。。

悩み苦しむ様子ということで、テンポを揺らしたり、左手でロールを入れたり、御息所の揺れ動き苦しむ心を表現しようと、工夫致しました。
最後にはついに「空をみだれ」てしまう御息所の魂の様を、激しいロールで表現しています。

そしてこのあたりの技は全て、和太鼓彩の楽曲「物の怪」や昨年のソロライブでお送りした締の曲「負けるなメイちゃん」で得たものです。
わたくし最近、締太鼓がとっても好きなんですよね〜。
独特の緊張感があり、また、ものすごい音色の幅が広いので、打っていてとても面白いのであります。

【3.白い貝】

続いての楽曲はこちら。
六条御息所の生き霊に取り憑かれ亡くなってしまう葵の上を表した楽曲です。
「彼女の瞼は白い貝のように閉じられていた」という原作の文章から、タイトルをいただきました。
いやはや、ほんとに、名言の宝庫。

葵の上が苦しむ様子を長胴太鼓の速打ちで表現。
急にテンポをあげ、緊張感を高めました。
その後は、低音(光源氏)と締太鼓(六条御息所)の掛け合い、
最後にはシンバルも交え、葵の上が苦しみ、亡くなってしまう様子をドラマティックに表現致しました。
「和太鼓で紡ぐ源氏物語」の中で、唯一といってもいい、和太鼓の迫力を全面に出した楽曲です。

【4. 慟哭の声】

こちらの楽曲では、葵の上を失って嘆き哀しむ光源氏の様を、低音太鼓で表現しています。
ポイントは、「葵の上を死なせてしまったのは、御息所の生き霊か、はたまた自分か…」という複雑な光源氏の心境。
もとはといえば、御息所が生き霊なってしまうまでに苦しめてしまったのは、他でもない光源氏自身。自身の行動が結果的に、最愛の妻・葵の上の死を招いてしまい、恨みと悲しみと、そして自責の念と、光源氏自身複雑な心境に追い込まれるのです。

ゆったりしたテンポの中で苦しみを込めた重い音を打ち込みつつ、時折入る速打ちで、光源氏の複雑な嘆き悲しみを表現致しました。

・・・と、1曲目から切れ目なくドドーンと続いてきましたが、ここでようやくひと段落。
シーンが変わります。

【5. あけぼのの空の色が染まるように】

続いての曲はこちら。
源氏物語には欠かせない「紫の上」がテーマです。

前述のレポートで触れたとおり、基本的には陰・闇、が底流に流れている源氏物語で、唯一「陽」の女性なのかな、と思っております。
無邪気で可愛く、可憐な女の子。
光源氏の元、「あけぼのの空の色が染まるように」美しく成長し、やがて押しも押されもせぬ光源氏の北の方として、光り輝きます。

冒頭ではゆったりとしたシャッフルのリズムと、ちょっと可笑しさを感じるようなチャッパの破裂音で、紫の上と光源氏が無邪気に遊んでいる様子を表現。
そして後半では、紫の上がと知性と教養のある女性へと成長し、北の方として光り輝く様子を、繊細なチャッパの音色で表現しました。

本曲を通じて改めて思いましたが、チャッパって本当に面白い。
以前とある先輩から「チャッパは小指で扱うもの」とアドバイスをいただいたのですが、今回チャッパの繊細な音を出そうと試行錯誤しているうちに、ようやくその意味が分かった気がします。
もっとチャッパもやりたいな〜

さて、そんな唯一ともいえる「陽」のオーラを纏う紫の上ですら、物語の最後には世の儚さを知り、出家を志し、光源氏よりも早くに亡くなってしまいます。
やはり最後には「陰・闇」に飲み込まれてしまうんですね。
そんな物語を表現するために、本曲も最後は「陰」の雰囲気で締めくくりました。

【6. 生涯の夢も恋も】

さあ、ついにやってきました。
源氏物語の主役ともいうべき女性、藤壺の宮のお話です。

光源氏の実母であり、不幸にも若くして亡くなってしまった桐壺宮の影を背負う、育ての母・藤壺の宮。
育ての母でありながらも年齢の近い藤壺の宮に、半ば執念ともいえる激しい恋心を抱く光源氏と、光源氏を拒絶しながらも、どこかで拒絶しきれない藤壺の宮の葛藤。
「複雑」という言葉では言い表せないほど複雑な2人の関係・感情を表現するために、全8曲の中で1番時間をかけて作った曲がこちらです。

まず一番意識したことは、曲全体を通じて流れる「雅」な雰囲気。
帝の奥様であられる藤壺の宮と、帝の子供である光源氏。
どれだけ情熱的でも、どれだけ執念的でも、2人のやり取りには常に風流人としての「雅」が漂います。
その雰囲気を全体として崩さないように、ということで、担ぎ太鼓を床に置いて叩く奏法を採用しました。
そもそも担ぎ太鼓を本曲で使ったのは、光源氏と藤壺の宮それぞれの感情を左右の手の動き・音で繊細に表現したいと思ったためです。
右手の低音では積極的にアプローチする光源氏を、左手の高音ではそれを拒絶しながらも揺れ動く藤壺の宮を表しています。

さて、曲の流れに入っていきましょう。

まずは冒頭。
このシーン、実は「五・七・五」のリズムに合わせて、2人の優雅な和歌のやり取りを表現しています。
まだ恋仲になっていない2人の、昔を懐かしみながら穏やかに言葉を交わし合う情景。

しかし、穏やかな情景は長くは続きません。
藤壺の宮への恋心を抑えきれない光源氏は、ついに忍び込んでしまいます。
ここで出るのが「衣擦れの音」。

これ、原作を読んでいてとても印象的だったのですが、この時代って、「静」であり「闇」の時代ですから、衣服が擦れる音で誰かが来たことを悟るんですね。
場合によっては、その音で誰が来たのか、も悟ってしまうのです。
いやはや、電燈がないからこその感覚ですよね。
わたくし生まれてこのかた、「衣擦れの音」なんて気にしたことがなかったので、とても新鮮でした。
同時に、「この世界観を表現したいな〜」ということで、本曲ではバチをこする音で「衣擦れの音」を再現してみました。

最初でこそ静かに、気配を消して忍び込んでいた光源氏ですが、徐々に大胆になっていきます。
一方藤壺の宮は、衣擦れの音・気配に誰かが来たことを察し戸惑いながら、それが光源氏だと気付くと、逃げようと動き出します。
逃げる藤壺の宮を、ついには力ずくで抑えしまう光源氏。
必死で抵抗する藤壺の宮・・・
そんな2人の微妙な動きを、1:10〜1:55に詰め込みました。

さあ、いよいよ2人だけになった空間。
しかしそれでも、一気に距離を縮めるようなことはしません。
なぜなら先述の通り、2人は高貴な身分であり、動きに常に「雅なプライド」が漂うからです。
ゆっくりと、時間をかけて、優しい言葉をもって距離を縮める光源氏。
拒絶しながらも心惹かれ、心惹かれながらも拒絶し、複雑な感情が入り乱れる藤壺の宮。

縮まっては離れ、離れては縮まって・・・そんな2人の長い長い恋の時間を、2:00〜4:30では表現しています。
うーん、まどろっこしい!笑
しかしこのまどろっこしさが「雅」であり、「風流」であり、果ては「和」に繋がっていくのでしょう。

さあ、いくら優雅で風流で〜といっても、言ってしまえば恋物語。
次第に光源氏は藤壺の宮への想いを抑えきれなくなり、一方、藤壺の宮の葛藤も激しくなっていきます。

クライマックスに向けて2人の激しい感情がぶつかり合い、絡み合っていく様子を、技としては「ダブルストローク」を使いながら表現しました。
右手と左手(光源氏と藤壺の宮)で入れ替わり立ち替わり激しく打つために、ダブルストロークを入れて右手と左手を入れ替える必要があったんですね。

このダブルストローク、個人的には2015年頃から練習を始め、実は昨年のソロライブでもちょこちょこ使ってみたのですが、非常に難しく、なかなか実践では使いこなせず・・・練習を始めて足掛け4年、ようやく実践で不安なく使えるようになったかな、という感じがします。
いやはや、何事も実践で使うには時間がかかりますな〜練習あるのみです。

片や愛に狂い、片や拒絶しながらも、最後には結ばれる(結ばれてしまう)2人。
いよいよクライマックです。

ここもこだわりをもっていまして、実は最後のシーンも、「五・七・五」になっています。
これは何かと申しますと、「後朝(きぬぎぬ)の文」ですね。
男女が恋仲になった後、翌朝に交わす文のやり取りのことです。
今でいう、「昨日はありがとう〜!また会おうね!」みたいなLINEのことでしょうか。笑

このリズム、光源氏が歌う(打つ)五・七・五と、藤壺の宮が打つ五・七・五、でリズムが変わっています。
自らを拒絶することを恨めしく、それでも再び会いたいと熱望する光源氏と、もう2度と過ちを犯したくない、光源氏を避けたいと拒絶する藤壺の宮。
翌朝になってより一層すれ違う2人の感情を、和歌のやり取りに乗せて、静かに表現致しました。

・・・と、この一曲だけでほぼ一本文のレポートができるのではないか、というくらい長くなってしまいましたが笑、以上が今回最も力を入れた楽曲、「生涯の夢も恋も」の全容です!
どうぞお納めください。。。

【7. 朧月夜に迷う道】

さあ、もはや論文なみの文字数になってきましたが笑、ここまで来たら後へは引き返せませぬ。
最後まで駆け抜けましょう!

7曲目、「朧月夜に迷う道」です。

この曲は言わずもがな、「朧月夜の君」にフォーカスを当てた曲となってしまう。
この「朧月夜の君」、ゆくゆくは帝の妃にもなる身分の高い方でありながら、どこか向こう見ずで情熱的。
光源氏が須磨に左遷される直接的な原因ともなった、物語のキーとなる女性でございます。
そんな若かりし2人の情熱的な様子を表現するために、楽器は動きの出る「担ぎ太鼓」を採用しました。

出会いはとある朧月夜。
光源氏はほろ酔いし、気分が高まっています。

2人の関係が原因となって左遷されてしまうわけですから、話としては結構重いのですが、朧月夜の君が登場するシーンって、世の憂さを忘れてしまうような、どこかへ飛んでいってしまうような、どこかポップで、ふわふわした時間が流れています。

そんな情景を表現するために、冒頭はゆったりとしたシャッフルのリズムで進行していきます。

このリズム、実は昨年のソロライブでお送りした「負けるなメイちゃん」でも使ったリズムです。気づいた方いるかな?

そしてポップさ・軽さを表現するために、角打ちも多く登場します。
1:48〜の箇所では6連符の中に角打ちを入れているのですが、これが難しくて難しくて・・・いや〜練習しました。
練習でもなかなか上手くいかずめっちゃ不安だったのですが、本番では無事成功し、良かったです^^;

曲の後半ではシャッフルから通常のリズムに戻り、激しい両面打ちで、周りが見えなくなってしまうほど情熱的になってしまう2人の若さ、向こう見ずな様子を表現しております。
(この6連符両面打ちも難しかった・・・)

【8. 関吹き越ゆる須磨の浦風】

さあ、ようやくたどり着きました最後の楽曲。
この曲では、光源氏が都落ちして須磨へと旅立つシーン〜そして明石の君と出会い、最後には都へ返り咲く〜ところまでを表現しております。

まずは、都落ちのシーンから。

鼓面の広い大太鼓を使い、大太鼓の中央〜端へと打点を動かしていくことで、都落ちしていく旅路を表現しました。

鼓面の中央(=都)から始まり、上を通り、徐々に鼓面の下(=須磨)へと移動していきます。
途中(1:15〜)で止まっているのは、旅路の途中で都を懐かしく思い、後ろ髪をひかれながら振り返っているためです。

須磨の浦でもの悲しい暮らしをしている光源氏。
しかしその暮らしの中に、光が差し込みます。
この光こそが、明石の君、ですね。

都にいた時と同じくらいの輝き、ということで、明石の君の登場も、象徴的な鼓面の中央の音で表現。
明石の君に惹かれながら徐々に光を取り戻していく光源氏の様を、大太鼓の鼓面の移動・打ち分けで奏でました。

物語を締めるクライマックス(5:56〜)は、鼓面全面を使うことで、これまで登場した数々の女性を振り返りながら、都へと戻っていく光源氏の様を表しました。
数々の女性との出会いを経て、光源氏自身も大人になりながら、物語は続いていくのです・・・(続)

ちなみに一番最後のリズムは、昨年のソロライブで披露した「大太鼓叙情戯曲」の最後と同じです。
この曲に込めた「祈り」の想いを、「和太鼓で紡ぐ源氏物語」の最後のリズムとして採用致しました。


と、超大作ヒストリーになってしまいましたが、以上、「和太鼓で紡ぐ源氏物語」でした!

我々和太鼓奏者は太鼓の音を通じて皆様に想いを届ける者ですから、言葉を通じて説明するのはなんとも野暮だな〜という思いもあるのですが(そのため、ライブでは一切説明を挟みませんでしたm(_)m)、今回の作品はなかなかにわかりづらい部分も多く、また、ありがたいことに「解説を聞きたい!」というお声も多くいただきましたので、ヒストリーを通じてお送りさせていただきました。

演奏のみでも、また、この解説を通じても、皆様に日本独自の「闇の文化」と、闇から生み出される独特の「雅さ」「まわりくどさ」をお届けできておりましたら幸いです。

さらにそれを通じて、皆様の日々の人生が少しでもみ優雅で、豊かで、落ち着きのあるものになれば嬉しいな〜なんて思っております。

これからも団体のモットーである「楽しいが響きわたる」をさらに印象的なものにしていくために、私個人としてはその逆である「静・闇」の表現を追求していきたいと思っておりますので、どうぞ皆様、温かく見守っていただけますと幸いです。

ソロライブ、ならびに、超長い本稿にお付き合いくださいました皆様、本当にありがとうございました!!!

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