月隠作曲秘話①〜イタリアでの出会い〜 by葛西啓之
日時:令和2年10月20日
執筆者:葛西啓之
タイトル:月隠作曲秘話①〜イタリアでの出会い〜
みなさまこんにちは。
葛西です。
ただいま、屋久島へと向かう飛行機の中。
ヒストリー原稿を執筆中でございます。
さて、2020年10月4日に、約8ヶ月ぶりの生ライブ「Maple in かめありリリオホール」、そして10月9日〜12日に、オンラインライブ「Maple in your room」を無事に終えることができました。
お越しくださいました皆様、ご覧くださいました皆様、本当にありがとうございました。
2020年2月より、コロナウイルスの影響に伴い、ほぼ全ての公演が中止。
約8ヶ月ぶりの生ライブとなりました。
再び皆様の前で演奏できたこと、そして、皆様にお会いできましたこと、とても嬉しかったです。
心より感謝申し上げます。
今回のヒストリーでは、本公演でお披露目となりました新曲「月隠(つきごもり)」について、記したいと思います。
突然ですが、「太鼓演奏が上手い人」というと、皆さんはどんな人をイメージされるでしょう?
太鼓をやられている方であれば、一人や二人、「あの人上手いよね」とか「あの人みたいに上手に叩けるようになりたい」とか、いわゆる「憧れの太鼓奏者」という人がいるんじゃないかな、と思います。
では、それは何を基準に「上手い」と感じているのでしょうか。
細かいリズムを叩けること?迫力があること?見た目がカッコイイこと?
人によって、様々だと思います。
・・・そう、実は、「太鼓演奏」というジャンルはまだまだ確立がされておらず、誰もが納得いく普遍的な「上手い」という概念が存在していないのです。
今日は、そんな「太鼓の上手さ」ひいては、「太鼓演奏とは何なのか」。
そういったお話をさせていただきたいと思います。
私は元々教員を目指していたこともあり、「太鼓×教育」を人生テーマとしているので、誰かに太鼓を教える、というのは割と好きなんですね。
そして有難い事に、芸能人の方々や高校生、はたまた社会人など、たくさんの方に太鼓を教える機会をいただき、指導をやらせていただているわけですが、その中で、「良い演奏とは何か?」ということを常々考えてきたのであります。
前述の通り、「創作太鼓」という世界にはまだ「正解」がありません。
上手さや魅力、そもそも「創作太鼓」というジャンルの定義は人によって様々で、教える時も、えてして講師の主観に寄りがちです。
バチの持ち方や構えもそれぞれ。
教える内容も、リズムの話をする人もいれば、パフォーマンスの話をする人、さらには、精神面の話をする人など、個々人が重要と思っているポイントに偏りがち。
私も例に漏れず、無意識の内に、「私が考える良い演奏」を押し付けがましく指導してしまっていたわけでありますが、ある日、そんな考えを変える運命的な言葉に出会います。
2017年12月。
とあるお仕事でイタリアに行った時のこと。
ユベントススタジアムのど真ん中で演奏する、という大仕事だったのですが、この演奏には「演出家」がいらっしゃいました。
私たちの自主公演では、演出も演奏もひっくるめて自分たちでやることが多いのですが、世間一般的には、「演出家」と「演奏家」は明確に区分けされているんですね。
演奏家はあくまで、高い技術をもって「演奏」するのが仕事であり、演出家は全体のイメージを構築しながら「演出」するのが仕事。
それぞれにプロとしての役割があるわけです。
日本にいる間に演出家の方と相談しながら練習を重ねていったわけですが、やはり物事はそうスムーズにはいかないもの。
イタリアに入り直前リハーサルを終えた後、演出家の方から、「パフォーマンス内容を変えたい」との打診があったのです。
打診をいただいたのは本番前日の夜。
「いやいや、そんな無茶な・・」という思いも確かにゼロではなかったものの、私個人としては、プロの演出家の方がリハーサルを見て何を感じ、そして、どこをどう変更したいと思われたのか、そこにはどんな狙いがあるのか、そんなことを肌で感じたく、
また、何よりその方は「演出のプロ」であるわけですから、「演奏家」である私はその方のイメージを具現化するのが仕事である、と思い、積極的に「分かりました、やりましょう!」と合意し、パフォーマンス内容のほぼ全てを直前に変更し、ぎりぎりまで練習を重ねて本番に挑んだのであります。
翌日。
その方の先見の明、と言いますか、「プロの目」はやはりすごいもので、内容を変更して送った本番は大盛況。明らかに前日までのパフォーマンスよりレベルの高いものとなり、関係者皆様から好評の声をいただき、夜にはトリノのオシャレなバーで打ち上げを行いました。
そこでの席のこと。
その方に話を聞きたい一心で隣の席に陣取り笑、喧々諤々、演出について、アーティストという仕事について、さらには太鼓について、話をさせていただいておりました。
(英語が話せないので、イタリア人の方とは会話ができない、という理由もありました。笑)
そこでいただいた一言。
「葛西くんのチームが一番大事にしているものは何だい?」
・・・
この言葉を受けた時、私は言葉に詰まってしまったのです。
お客様に楽しんでいただけること?
リズムが合っていること?
パフォーマンスの派手さ?
メンバー同士の仲の良さ?
全て大事だし、うーん、一番と言われると・・・
そんな感じです。
言葉に詰まっている私を見て、その方が続けます。
「葛西くんは、太鼓を“学問”にしなさい。太鼓が世間一般に広まらず、市民権を得られていないのは、“学問”になっていないから。太鼓の歴史や打ち方、全ての可能性を研究して、誰もに伝わる“太鼓学”を確立させなさい。それは、君にしかできないよ」
・・・と。
胸に刺さりました。
そうか、「和太鼓を社会的意義のあるものへ」という私の夢を叶えるためには、世間一般、誰しもに伝わるように、「学問」と呼ばれるレベルにまで太鼓を押し上げていかなければいけないのだ、と。
そんな大いなる野望と刺激をいただき、非常に充実したイタリア遠征を終え、帰国。
帰国してから私は早速、太鼓を「学問」とするための研究に取り掛かりました。
太鼓を「学問」にする。
そのためにやらなければいけないことは何か?
「学問」とは、「客観性」。
私が考える「良い演奏」ではなく、世間一般、普遍的に通じる「良い演奏」とは何か?
何をもってすれば、太鼓が「社会にとって意味のあるものになる」のか?
そういったことを極力客観的に、考え、調べるようになりました。
「太鼓演奏」というある種主観的なものを、ロジックを積み重ね、世界に通じる客観的なものへ。
私のチャレンジが始まりました。
そして2020年。
太鼓の歴史や文化的背景、さらには社会性などの研究と同時進行で、「創作太鼓」というジャンルについても研究を進めてきました。
ここでは、「月隠」という曲に直接関係する、「創作太鼓」に関して、記載させていただきます。
2年間の研究で確信を持った「良い演奏」の要素は、下記の通り。
① 創作太鼓とは、「音楽」「運動」「表現」を掛け合わせた「総合舞台芸術」であること
② 作り込んでいく順番としては、「音楽」としての要素が一番にくること
③ 「音楽」において最も重要な要素は「リズム」であること(横軸)
④ 通常音楽では縦軸に「旋律」がくるが、和太鼓演奏にはそれが基本的には旋律がないこと
⑤ そのため、和太鼓演奏においては縦軸に「音量」という概念を用いること
⑥ 「リズム」と「音量」の掛け合わせで(そこの面積)によって、聴く人の心が動く(=感動する、良い演奏)こと
⑦ それが完成した先に、「運動」や「表現」としての要素が付加されていくこと
などなど、でしょうか。
こうして文字で書いても分かりづらいですかね。。。
ご興味がある方は、下記の動画もご覧ください。
和太鼓彩に加入した新メンバーに、最初に行なっているプレゼンテーションになります。
さて、だいぶ遠まわりしてしまいましたが、今回のテーマは「月隠 作曲秘話」。
(私も忘れかけておりました・・・汗)
この曲は、どこを意図して作られたか。
上記の⑤番、「音量」です。
この曲は、和太鼓演奏における「音量」という概念を分かりやすく具現化するために、作曲致しました。
改めて、「和太鼓演奏でなぜ人は感動するのか」。
皆様はこの問いの答えをどう規定するでしょうか。
もちろん、「演者の気持ちやストーリー」「がむしゃらさ」はたまた「リズムの面白さ」、などなど、答えは多種多様、はたまたそれらの掛け合わせだと思います。
しかし、あえて答えを一つに絞れと言われたら、それは「音量」と言わざるを得ません。
正確に言うと「音量差」です。
抑揚やダイナミクス、なんていう言われ方もしますね。
和太鼓は世界で最も大きな音が鳴る楽器と言われています。
大きな音。
しかしそれ自体は、音楽においては価値ではありません。
大きな音がずっと鳴っているだけでは、誰も感動しないからです。
物事はあくまで相対評価。
人間は常に何かと何かの「比較」の中で、考え、感動し、人生を進んでいくのです。
それを捉えた時に、和太鼓演奏の最大の魅力は、「世界で最も大きい音が鳴ること」ではなく、「世界で最も音量差を出せる楽器であること」なのであります。
かくして「月隠」では、「世界で最も音量差のある音楽を作る」、というコンセプトの元、曲作りに入っていったのであります。
いよいよ月隠の作曲秘話に入っていくわけでありますが、前段でだいぶ文字数を使ってしまいました・・・
まだまだ先が長いので、本日はここまで。
次回、「月隠 作曲秘話〜本編〜」をお送りしたいと思います。
お楽しみに!
ではでは、ばいばーい。
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