1. HOME
  2. ツアー「衝動」〜ビジネスとしての和太鼓〜 by葛西啓之

ツアー「衝動」〜ビジネスとしての和太鼓〜 by葛西啓之

日時:令和2年9月22日
執筆者:葛西啓之
タイトル:ツアー「衝動」〜ビジネスとしての和太鼓〜

みなさまこんにちは。
葛西です。

時は2012年。夏。

東京〜熊本の往復生活を続けていたわたくし。
(詳細は前回レポート参照:https://wadaiko-sai.com/archives/history/200625

そんな中、私の人生を左右する大きな大きな挑戦が目前に迫っておりました。

和太鼓彩初となるツアー。
「衝動」つくば公演&松戸公演です。

同年1月に第4回単独公演「衝動」@北沢タウンホールを終えた後、
初のツアーにチャレンジすべく、動き出していたのであります。

*ツアー化に至るまでの詳細は以前齋くんが触れておりますので、そちらもご参照ください。
https://wadaiko-sai.com/archives/history/190623

さて、1月に行った「衝動」公演では、主に「メンバーの気持ち」「内部」に焦点を当て、アマチュアからプロを目指す中での太鼓へのあくなき「衝動」を表現しました。

では、8月に行われたこのツアー「衝動」には、どんな意味があったか?

・・・

それは、「ビジネスとしての和太鼓」です。


「プロとは何か?」「プロとアマチュアの違いは何か?」

これは芸能の世界において、非常によく問われる事項です。
私自身、アマチュア時代も、プロになってからも、たくさんの人にこの質問をされてきました。

果たしてその境界線はどこにあるのかー。

人それぞれに様々な判断軸を持っているかと思いますが、私個人としてはシンプルに、
「それを仕事とし、お金をいただいているかどうか」
これに尽きると思っています。

もちろんその先にプロとしての技術力、プロとしての表現など、様々な要素が出てくるわけですが、ヘタクソだろうとなんだろうと、それでお金を稼いでいれば、それで飯を食っていれば、「プロ」。
それ以外に判断軸はない。
わたしは、そう、思うのです。

さて、ひるがえって当時の和太鼓彩。
当時の和太鼓彩は「アマチュア」です。
当時は演奏で(基本的には)お金をいただいていなかったからです。

そんな和太鼓彩の面々が「プロ」になりたい、と言っている。
はやく「プロ」になって、24時間365日、太鼓の活動に専念したい。
もっと大きなステージで、世界中で演奏がしたい。

と。

そんな切実なメンバーの思い・叫びを受け、代表としてできることはただ一つ。

この「和太鼓彩」という団体で、「お金を生む」ことです。

ツアー「衝動」という公演を“商品”へと変換させ、それを売ってお金を生み、和太鼓彩をビジネスとして成り立たせること。
もっと厳密にいうと、ビジネスとして成り立つ兆しをメンバーにも提示して、メンバー全員に、「俺たち、本当にプロになれるんだ!(=和太鼓で食べていけるんだ!)」というイメージを持ってもらうこと。

私にとって、ツアー「衝動」には、そういう意味がありました。

さあ、これは大変です。
なにせ結成以来7年間、ひたすら「良い演奏=発表会」を目指して、どうすればそれが達成できるか、そのために、どうすればメンバーのモチベーションがあがるか。
そんなことばかり考えてきたわけでありますから。

改めて“太鼓演奏という商品”を“売る”ということを考えた時に、それはそれは、途方もないチャレンジだったのでありました。

一方で、この、「和太鼓彩の演奏」という商品を「売る」という取り組みは、私にとってこの上なく楽しく、希望に満ちたチャレンジでした。

またまた話が脱線しますが、「自分が好きでもないものを人に売らなければいけない」、これって、結構しんどいことだと思うんですよね。
いわゆる“ノルマ”なんて言い方もされますが。

自分が好きなモノ・サービスなら、その魅力を自分が分かっているし、あの人にオススメしたら役立つだろう、あの人に使ってもらったら喜んでもらえるだろう、と、イメージがどんどん膨らみます。

でも、「自分が好きでもないモノを見ず知らずの第三者に売らなければならない」、これって結構無茶な話で、「これを買った人は本当に幸せになれるんだろうか?」とか、「この商品を買ったことによってその人が万が一不幸になってしまったらどうしよう」とか、「自分は人を騙していることになるんじゃないか?」とか、そんなマイナスイメージが膨らんでしまって、思うように動けなくなってしまうと思うんです。
でも、会社からは「売ってこい!」って言われるし・・・

売りたくもない人が手をかえ品をかえモノを売り、買いたくもない人がそれに扇動されて買わされてしまう。
買わされた人が満足してないからリピートしないし、長期的に見たら会社自体にとってもマイナス。
結果、誰一人として幸せにならない。

不思議ながら、そんなちぐはぐな現象が社会のいたるところで起きていると思うのです。
そしてご多聞に漏れず、私もサラリーマン時代、そんなちぐはぐな一人でした。

広告宣伝会社にいるわけですから「宣伝」をするのは当たり前なんですが、「何の商品の宣伝をするか」は自分では選べないし、言ってしまえば、「この商品誰の役に立つのよ・・」みたいなモノも正直あるわけです。

でも、サラリーマンとしては、どんな商品であろうと、担当である以上その商品を宣伝して、たくさんの人に売らないといけない。
モノが売れてはじめて、自分の給料をいただけるのです。
その先にいる人々(消費者、なんて無味乾燥なワードを使われますが)が結果的に幸せになっているのか、不幸になっているのか、なんてのはお構いなしに・・・

と、まあこれは穿った見方が過ぎますが、当時の私はそんな疑問、というより、自分の中にある「身勝手な正義感」との間で葛藤を抱えていました。

*念のために記載しておきますが、これは決してモノを作ったり、それを宣伝している「会社」が悪いわけではありません。そもそもその会社に入りたい、入ろうと決めたのは他でもない自分自身ですから、入ってから「こんなモノ売りたくない!」なんていうのは非常に無責任ですね。基本的にその責任は本人にあるのです。
そういう意味では、最近の風潮ともいえる「会社批判主義」「会社が悪いんだ!」という考え方には若干の疑問を抱きます。

強いて言うなら、ビジネスの本質や目的に触れず「いい会社に入ることが良いことだ」というイメージのみを醸成していると思われる教育システム、就職活動のシステムに問題があるのでは、と。
このあたりは書き出したらキリがないので、いずれまた機会があれば語りたいと思います。

さて、だいぶ脱線してしまいましたが、当時私はそんな葛藤を抱きながらサラリーマンを続けていたわけですが、ひるがって和太鼓彩は、自分にとって何か?

一言でいうと、「超大好きなモノ」です。

メンバーのことも心から信頼しているし、
曲もイケてるし、
何より、このメンバーで奏でる演奏は最高だ!
見た人みんなが幸せになれること間違いなし!
世界中全ての人にこの演奏を届けたい!

そんなことを本気で思っていました。
(これはもちろん、今でも思っていますが)

それくらい「好き」なものだったから、「売る」という取り組みはとても楽しく、希望に満ち溢れたものだったのです。
本来、「売る」とか「宣伝する(広める)」という行為って、誰かに強制されるものではなく、自然発生的な心の動きだと思うのです。
自分が好きなモノを作れば、「これをもっと多くの人に知ってもらいたい!」と思うのが必然ですから。
まさに「衝動」ですね。

さて、そんなわけで、自分の大好きな「和太鼓彩の公演」という商品を広め、売るべく、様々な取り組みに着手しました。

これまで基本的には無料で公演してきたものを有料にすることはもちろん、
様々な会社をまわり協賛のお願いをしたり、
あらゆるSNS、当時でいうと掲示板みたいなものに情報を掲載しまくったり、
はたまた初めて自分で「広告」を出したりもしました。
(小さな雑誌広告でしたが)

これまで“自分たち”がやりたい表現、やりたい曲をメインに考てきたものが、
“お客様”はどんなものを見たいかな?ニーズはどんなところにあるのかな?
なんて、マーケティング発想を取り入れたりもしました。

これまでセットリストと配置図ばかりにらめっこしていた自分が、
収支表ともにらめっこするようにもなりました。


こうして迎えたツアー「衝動」。

名目としてはまだアマチュアのチームでしたが、
上述の通り、私の中ではお金をいただいた時点から「プロ」。
これまでの公演とはまた一段階違った気持ちで舞台に立ったことを鮮明に覚えています。
もしかしたらこのツアー「衝動」の2公演が、和太鼓彩にとって初めての「プロ」としての公演だったかもしれません。

・・・結果、どうだったか。

お客様からいただいたチケット代金と、企業様からいただいた協賛金の中から
練習スタジオやホール、スタッフさんへの支払いを済ませ、
和太鼓彩の手元には数万円の“利益”が残りました。

そう、和太鼓彩という団体が初めて“利益”を生み出し、“ビジネス”として成り立った瞬間です。
(この時までは、メンバーみんなでお金を出し合いながら活動を続けてきました)

わずか数万円。
20代の男10人が食べていくには、少なすぎる数字かもしれません。
しかしこの数万円は確実に、私はもちろん、メンバー一人一人に確固たる希望を与えたことでしょう。

俺らは和太鼓で食べていけるかもしれないー
「プロ」になれるかもしれないー

と。

このツアーで得たわずかばかりの希望を胸に、
ここから本格的に、「プロ」として飛び出すための準備を進めていくこととなるのです。

・・・と、今回は「ビジネスとしての和太鼓演奏」という観点から、ツアー「衝動」を振り返らせていただきました。
やや生々しい話が多くなってしまいましたが、こういった意味でも和太鼓彩の大きな転換点となったツアー「衝動」。
その大事なヒストリーを、ここに書き記させてください。

最後になりましたが、この時、衝動という“商品”を買ってくださった皆様には、感謝してもしきれません。
今になって見返すとまだまだ荒削りで、とても売れるような商品ではなかったかもしれませんが、それでも私たちの“商品”に価値を感じ、お金を払ってくださった皆様がいらっしゃったからこそ、今の和太鼓彩があります。

皆様が買ってくださった「衝動」が、皆様の豊かで幸せな人生の一助となっていたことを願ってやみません。
本当にありがとうございました。

それでは、本日はここまで。
ばいばいー。

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。

関連記事