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ヘビーにピアス〜片耳にかけた和太鼓への誓い〜 by渡辺隆寛

日時:令和2年11月19日
執筆者:渡辺隆寛
タイトル:ヘビーにピアス〜片耳にかけた和太鼓への誓い〜

今や僕のアイデンティティともなった、この片耳のピアスに、
一つの物語があるのを、皆様ご存知だろうか。

タトゥー、ピアス、整形、
正直今でも日本人の中では、苦手意識を持つものは多い。

「親からもらった身体に、傷をつけて!」
「顔を変える必要があるのか」

これらの行為には、少なからずこのような言葉がついてまわる。
幸いなことに、この数年で世間の見方も変わり、
ピアスはよりおしゃれとしての人権を得、タトゥーもシールなど簡易的なものが増え、
プチ整形なるものも出てきたことで、そう珍しいものではなくなった。

とは言え、単なるおしゃれや、一時の感情で行うと後々痛い目を見ることがある。
これは間違いない。

そこには何かひとつ、主義や信条のような物を通すべきであると、僕は考える。
そして少なくとも、僕はそれほどまでに重い覚悟で、この穴を開けた。

そのきっかけとなったのが、忘れもしない「衝動Ⅱ」だ。
僕は、この片耳のピアスに、「全国ツアーへの誓いと、和太鼓彩にかける想い」を込めた。


◆初の全国ツアー

2014年の終わり頃、代表葛西からこう告げられた。

「和太鼓彩、初の全国ツアーが決まった。」

デビューしてまだ2年ほどの僕には、あまりに唐突な出来事で、ぽかんとしてしまった。
2005年に結成して以来、どれだけの悲願であったか、その重さははかりしえない。

10年の重みを、そして、
当時先陣を突き進んでいた5人のその決意を感じて、背筋が伸びた。

僕にできることはあるのか。

◆全国への重み

アーティストという職業は、殊更にややこしい。
自らの能力を持って、お客様からお金を頂戴するにはそれなりの説得力が必要だ。

いわゆる「給料」とは話が違う。

舞台上でポカでもした際には、もう次はないかもしれない。
常にその瀬戸際で戦っている。

当時学生であった僕も、一度舞台に上がればプロの端くれ。
中核メンバーに見劣りをしないように、ただひたすら稽古を重ねるしかない。

もちろん、中心となり舞台を支えるメンバーがいるものの、
わずかデビュー2年ほどの僕をツアーの舞台に上げるには、代表を含め相当の覚悟があっただろう。

舞台演者とは、様々な知見を持って生モノの音楽をお届けする一方で、
若かりし僕には、そこで戦っても先輩方と肩を並べることはできないことは目に見えていた。

どうすれば戦えるか。
必死に喰らいつかなければ…。

そんな不安とプレッシャーが入り混じりながら悩んでいる時、
とある方から、こんな言葉をいただいた。

「君が上の人たちに対抗できないなんて当たり前だよ。
でも、君には君にしかできない”想い”や”表現”があるはず。
君にしかできない演舞をしなさい。」

今考えればどの社会に出てもおんなじことを言われるのであろう。
だが、当時の僕には眼から鱗だった。

いつの時代も、先輩という存在は偉大だ。
自分がいかに青くて、未熟かを思い知らされる。

真正面からぶつかったって負ける。
だったら、この青さを、未熟さを武器にするしかない。

「僕には、僕にしかできない表現があるはずだ。」
そう思うと、肩の荷はそのままに、少し心持ちは軽くなった気がした。

あとはやるしかないのだ。

◆日々是精進也

それからというものの、毎日メンバーと稽古に励んだ。
もちろん当時大学に通っていたため、学校と稽古場の往復だった。

何度も、何度もリハーサルを繰り返し、
普段の自主公演なんか比じゃないくらいゲネプロをした。

舞台も、今までより遥かに高いひな壇。
最上階に立った時の、少し立ちくらみする感じを今でも忘れない。
身体の先まで電気が走ったようだった。

上のメンバーは毎日あーでもないこーでもないを繰り返していた。
この頃から、和太鼓彩のライブ構成や作り込みがガラリと変わった気がする。
綿密な計算を繰り返し、入念に作り上げて行った。

皆それほどまでに、”全国”への想いを募らせていたのだ。

もしかすると、「ここでこけたら、次の全国ツアーは遠い」
そんなふうに思っていたかもしれない。

普段の打ち込みに加え、新たなトレーニングもどんどん加えていった。
いわゆる練習改革を重ねて行ったのである。

もちろん指導されることも多かった。
「表情」「目線」「所作」など、今までよりもさらに細かく指示された。

「表情を意識して」

「もっと胸を張って、でも目線はそのままで。」

毎日ヒーヒー言いながら稽古に励んだ。
家に帰れば泥のように眠り、手には血豆をたくさん作った。
(ちなみにそんだけがんばったのでご飯はうまかった。毎日たくさん食べました。笑)

わからないことだらけで、高校時代には感じえなかったような太鼓の難しさを毎日感じ、
苦悩と興奮が入り混じっていた。

でもやればやるほど、胸の奥底が熱くなっていくのを、手に取るように感じた。

「全国ツアー、絶対に成功させたい。」

◆誓い

この「衝動Ⅱ」、どこかひとつ、大きな段を登るようだった。
そして、一度登れば、簡単に降りられなくなる気もしていた。

和太鼓彩が、また一つ別のステージに移っていくように。

そして同時に僕の中でも、大きな節目を感じていた。

二十歳を過ぎ、大学生活の中で、自らの選択で多くの世界に触れてきて、
団体からはこんな滅多にないチャンスを与えてもらい、
でも裏を返せばそれはピンチでもあり、
自分の中で、一つ、大きな人生のターニングポイントを感じていた。

形はなんだってよかった。
別にそれがタトゥーだろうが、ミサンガだろうが、丸坊主だってなんだっていい。
それは僕が、舞台上で何か一つ輝く意思表示のようなもので、
後に戻れないその感覚が、どこかリンクしていて、
演者としての覚悟を表すべく、僕はこの左耳に思い切って穴を開けた。

開けた瞬間、引き下がれない想いと、
決して引き下がらない決意を感じ、
小さなピアスに、大きな重みを感じた。

そして、開けた穴が痛むほどに、胸の高鳴りを感じていた。

◆Are you ready?

そして、迎えた本番当日。

緊張や興奮が入り混じり…
浮き足立つように落ち着いていて…
冷静と熱狂の間で、
皆、一様に確かな想いと、覚悟が重なっていた。

本番の数日前にとったスチール写真。

今と比べればまだ幼さは残るが、ここ数回のヒストリーの写真と比べてみても、
その差は歴然である。そんなもん自分でもよくわかる。

和太鼓に出会ったあの日から、こんなにも多くの舞台に立てるとも思っていなかった。
こんなにたくさんの人に出会えると思っていなかった。

僕の伝えたいこと、
和太鼓で成し遂げたいこと、
この頃から実は見えていた気がする。

舞台のひな壇を、一段一段駆け上がるように、僕らはもう止まることができない。

いざ、照明が落ち、緊張の瞬間が訪れる。

幕が開け、代表葛西にライトが当たる…

和太鼓彩の音を紡ぐように、

今、初の全国ツアー、

衝動Ⅱ」が始まる。

………Be Ready.

つづく

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