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【後篇】婲阿吽駆徹底解説ヒストリー決定版〜和太鼓×ブラックミュージック〜 by渡辺隆寛

日時:令和3年6月23日
執筆者:渡辺隆寛
タイトル:【後篇】婲阿吽駆徹底解説ヒストリー決定版〜和太鼓×ブラックミュージック〜

<目次>
(前篇)
1、 そもそもファンクとは?
2、 「婲阿吽駆」楽曲テーマの「表と裏」
① 「表テーマ」
→「和とブラックミュージックの融合=フュージョン」「音楽(生ライブ)の素晴らしさ」
② 「裏テーマ」
→「16ビートの理解と実践」「西洋グルーヴの理解と実践」「ドラム技術の応用」

(後篇)
3、 最強のフュージョンバンド
(1) 「婲阿吽駆」は元々2曲だった!?
① 「技」の婲阿吽駆1
② 「体」の婲阿吽駆2
(2) なべっちと塩見さんは「一“心”同体」!
(3) 対位法とシンコペーション
(4) 表現する世界
① 朝まで踊り明かそう!これぞダンスナイト!
② 照明のお話…「まどろみの夜」と「夜明けの訪れ」
4、 この一年の総括
5、 今後の展望


さて、今回は婲阿吽駆徹底解説後篇!
前篇を見てから見てね!

今回はこちらの動画をもとに解説していきます!
ぜひ併せてご視聴ください!
【彩TIMES 2nd.】渡辺隆寛 作曲「婲阿吽駆」演奏動画 (和太鼓グループ彩 WADAIKO SAI)

最初に言っておきます、
皆様を置いていく覚悟でこのヒストリーを書きます。笑

3、最強のフュージョンバンド
(1)「婲阿吽駆」は元々2曲だった!?

さあ、前回お話ししたように、そもそもファンクとはジャンルの名前であり、
一口に言ってもその形は様々。

「Jaco Pastorius-“The Chicken”」

「James Joseph Brown, Jr.-“SEX MACHINE”」

曲を作るにあたり、どんな曲調にするかを決めあぐねていた。
「とりあえずデモでいいから2曲作ってみよう!」

それで仕上がったのが、
0:00~「婲阿吽駆1」
3:21~「婲阿吽駆2」

勿論、それぞれのままでも十分いい曲に仕上がったと思っている。
ただしその中で、
・より深くファンクを知ってもらいたい
・ストーリーを感じてもらいたい
さらには、演出上の都合ではありますが、見応えを出したいという舞台芸術的な側面からも、
この形になりました。
舞台演者として、忘れてはいけない精神です。

① 「技」の婲阿吽駆1
◆基本グルーヴ「バウンス」

ファンクの最大の特徴である、少し跳ねたような小気味のいいビート。
これを「バウンス」と言ったりします。

バウンスとは、16ビートの延長とシャッフルの融合。
シャッフルとは、ドッコドッコという跳ねたリズムで、
和太鼓彩の楽曲でいえば、「ADVENTURE」「Join us!!」「Beaters」
最近では「侍ジョニー」でも使われていますね。

しかしこれらは、8ビートのシャッフルであり、常にピョンコピョンコ跳ねている感じなのですが、
バウンスは、“細かく跳ねる”とでも言ったら良いのでしょうか。
最近のJ POPでは東京事変さんの「丸の内サディスティック」の冒頭がまさにこれを使ってますね。

婲阿吽駆1はこの「バウンス」を採用しました。
バウンス自体は特段珍しいものでもありません。
最近のJ POPでは使われることも多くなった気がしますが、
やはり日本人の馴染みのなさが、目新しさを生んでいる気がします。

前回も記述した通り、今回の目的である「グルーヴの理解と実践」をこの「バウンス」を用いて、メンバーに体得してもらいました。

よく高校生から、「シャッフルがうまく叩けません」という相談をいただくことがあります。
確かに、シャッフルというものは日本の音楽と異なるところがあります。
しかし、三宅島に伝わる伝統太鼓ではこのシャッフルに似たドッコドッコというリズムが使われていたりします。
グルーヴの体得には、「その曲を聞いたり、体で乗れるようにひたすら落とし込む」そんな作業が必要になってくるのです。

そこで僕がメンバーにできることはただ一つ、
たくさんのファンクの楽曲を紹介して、「聞け!」ということだけでした。笑

◆ふんだんに取り入れたドラム技術
そして婲阿吽駆1は「技」の婲阿吽駆1と題し、
様々な技術的要素を盛り込んでいます。

その中でも特に力を入れたのが、「ドラム技術の応用」です。
何を隠そう、このバウンスビート、音楽的にいうとどんなリズムでも合いやすいという利点があり、
年長者に任せることで、様々なバリエーションのソロを展開してくれることを望みました。
(大新曲まつりでは僕が作ったソロフレーズでしたが、今後さぞいろんなソロをやってくれることでしょう!笑)

ではざっと説明していきます。
【フラム】
→画像2小節目、音符の前に小さい音符がついてるのがお分かりだろうか?
この小さく1打打つことで、次の一打の迫力を増しているのが「フラム」である。
前打音とも言われ、マーチングのスネアドラムとかでよく聞く。
齋ソロでは他にも、裏拍や6連符を多用することで疾走感を出している。

【ラフ】
→これもフラム同様、前打音と呼ばれるものだが、下の1小節目のように2打打つものが「ラフ」である。
これはフラムに比べ、うねりの様なものが出やすく、ジャズやファンクなどでよく使われる。

【メトリックモジュレーション(2:01~)】
→下の図の1小節目では16部音符が並んでおり、4つずつのその頭にアクセントマークが入っている。
しかし2小節目では、3連符が並んでおり、その3連符の4つずつにアクセントマークが入っている。
こうすることで、時間が少し伸びたような感じに聞こえる不思議な打法なのである。
このメトリッックモジュレーションの難しいところは、変な小節数で区切れてしまうため、元のテンポに戻ってくるのが難しいところ。

【シンバルレガート(2:40~)】
→シンバルを使って跳ねた様なリズムを打つことを「レガート」と言ったりするのだが、今回はあえて、チャンチキを使って演奏。
やっぱりチャンチキにするだけで、和風感出るんだよなあと思いながらやってました。笑

◆柔よく剛を制す
総じて、意識したのは「肩の力を抜いて、純粋に音楽と技で魅せる。」こと
これが「技」の婲阿吽駆1となった所以である。

この一年間、僕らが和太鼓の魅力を引き出そうと練習してきたこと、
それをいかにしてお客様に届けるか。
技が全てでもなければ、力が全てでもない。
そんな上手いバランスを探して、この曲に落とし込みました。

② 「体」の婲阿吽駆2
◆「ストレート」

さっきのバウンスから一転。
跳ねるなんて一切なしのド直球勝負に出ました。
実際テンポはそんなにあげてないのですが、全く跳ねないことによりスピード感を演出。
このビートの切り替えが結構難しいんですよねえ。

曲の進行を表拍でとるか、裏拍でとるかという違いでもこのグルーヴ感って違うんですけど、
この話、文字では全然できないので、これはまた今度にします。笑

◆和太鼓の力強さ、優しさ
婲阿吽駆1がどちらかというとブラックミュージックに寄ったのに対し、
婲阿吽駆2は和的に寄り添います。

その和の心を体現するのが、酒井と海。
どっしりと構え、勢いよく打つ様は、
「小賢しい技なんて知らねえけど、太鼓ってこれだろうりゃーー!!!」という声が聞こえてきそうです。笑

でもそれも一つの真理ですよね。
太鼓の魅力ってそんな、ちまちましたとこで測られるもんでもないと思うんですよ。

胸にくる熱いもの。
そんな思いも和太鼓の一つ。
今回は、そんな和太鼓の力強さ、そして優しさなんかを若手の二人に託してみました。

◆剛よく柔を断つ
みなさん、「柔よく剛を制す」という言葉は結構知られていますが、
意外とその言葉の続きを知る人は少ないように思います。

「柔よく剛を制し、剛よく柔を断つ」

中国の老子の思想書物「三略」から来ています。
「力あるものを技で制する」という意味で伝わりがちですが、
「技をも力でねじ伏せる」そんな意味も込められています。

じゃあ一体どっちなんだよ!笑
と言いたくもなりますが、その本質は、どちらにも良さがあり、要は使い方次第、
という精神だと思います。

こう考えると、僕らしさというか、なんか人間性出ますね。笑
ヒストリー書いてて改めて気づきました。

そんな思いを、彼らには4:23~から熱いソロにぶつけてもらってます。
ここ、16ビートという決め以外は何一つ握ってないのでその場で生み出されます。
僕らはいつも「カオス」なんて言ったりしますが、まさにですね。


(2)なべっちと塩見さんは「一“心”同体」!

この曲には「心」「技」「体」が軸となり構成されています。
「技」の婲阿吽駆1
「体」の婲阿吽駆2
ときました。

では、「心」は?
そう、まさにその答えは、ファンクのグルーヴを織りなす「ドラムパート」にあります。

ドラムは普段、四肢を駆使してグルーヴを生み出します。
しかし、和太鼓は立って演奏する特性上、どうしても片足が使えません。

そこで僕は、塩見大先輩に、僕の右腕ならぬ“右脚”になってもらい、
バスドラムを華麗に奏でてもらいました!

これ実は、
ハイハットとスネアはタイム感を一定に保つ上で基本うねらせないんですけど、
バスドラムはその入れる音の位置でグルーヴのうねりが決まるので、めちゃくちゃめちゃくちゃ大事なのです!!!
誰ですか!塩見さんのパートを地味だと言った人は!!!笑

なので、二人で何度も何度も合わせる練習をしました。
本当にドラムって難しいんです…

(3)対位法とシンコペーション
ここからは婲阿吽駆全体の進行のお話です!

【対位法】
この曲、実は長胴、低音、ドラムと構成は3パートの非常にシンプルな作りとなっています。
しかし、そこはかとない音のふくよかさと音圧。

これを生み出しているのが、「対位法」なのです。
対位法とは、異なるメロディを同時に流すことで、少ない楽器で音楽の層を厚くする音楽技術のことで、「HA HA HA HANDS!!!!!!!」の笛なんかもこれが使われています。

これが、婲阿吽駆のテーマ楽譜。
上が長胴で、下が低音です。
(実は婲阿吽駆のテーマって、1も2もおなじなんです。)

これ音楽やってない方にはどこまで伝わるか非常に難しいのですが、
同じフレーズが少ないというところまでは、お分かりになりますでしょうか?

これがいわゆる対位法ってやつです。
特に低音のリズムは、あえて間延びした進行にしていることで、バウンス感を消して、
全体的にズーン!という感じにしました(伝われ。笑)

なので、徹底解説動画でお送りした「ひとり婲阿吽駆」
一人には思えないほど、常に音が鳴っていたと思います。

【彩TIMES 2nd.】渡辺隆寛 作曲「婲阿吽駆」「ひとり◯◯グランプリ2021男子シングル:「婲阿吽駆」」(和太鼓グループ彩 WADAIKO SAI)

【シンコペーション】
そして、シンコペーションです。

シンコペーション(跳音)
シンコペーション(syncopation、切分法)とは、西洋音楽において、拍節の強拍と弱拍のパターンを変えて独特の効果をもたらすことを言う。 主に、弱拍の音符を次の小節の強拍の音符とタイで結ぶ、強拍を休止させる、弱拍にアクセントを置く、の3つの方法がある。 俗語として「食う」と表現する場合もある。

ファンクって、日本のビートと近いところがあるとすれば「頭の一打に重きを置く」
ところだと思います。

そんな一打のインパクトを出す方法として、「シンコペーション」という技があるのです。

例えば、この曲全体を通して繰り返される決めフレーズがあります。(0:03~)

このフレーズ。これがシンコペーションです。
もっとわかりやすく言うと、「なべっち」
これがシンコペーションの音となってます(へぇ〜)
なのでこの決めに歌詞をつけるとしたら、「なべっちっちっち丼、なべっち」になります。笑

「なべっち」というシンコペーションをうまく使うからこそ、「丼」がすごくしっかりした音として生きてくるのです。
何言ってるかわかりませんか?僕もわかりません。笑
でもそうなんです。笑

ぜひ曲を聴いてる時に、今の「なべっち」だ!と、あなたの身の回りのなべっちを探してみてください。


(4) 表現する世界
① 朝まで踊り明かそう!これぞダンスナイト!

今回僕が表現した世界は、クラブ、ライブハウスのような音楽の波に乗り踊り明かす夜。
そして僕らはそこで演奏するファンクバンド。
花形ギター…葛西、齋
渋いベース…酒井、海
そして、ドラムス…なべっち、塩見

ギターは自分の技に酔い、ベースは曲の基盤を支え、ドラムはグルーヴを支配する。
そして今宵は、ダンスナイト。

「しけた顔しちゃもったいない!」
生の音楽を聞いてるんだ、何座ってじっと聞いてるんだ。
音楽はともに感じ、ともに楽しむ、そうだろう!?

そんな思いともに、婲阿吽駆1から婲阿吽駆2にかけ、
夜がふけ、朝に向かってヒートアップしていくそんな様子を表現しております。

なんだかいつもの和太鼓彩とは違った演奏だと感じた方も多いのではないでしょうか?
これにて、最強のフュージョンバンドの完成です。いえい。

② 照明のお話…「まどろみの夜」と「夜明けの訪れ」
さて、それを受け、照明さんと相談しました。
「婲阿吽駆1は夜更けの紫、婲阿吽駆2は夜明けの赤、そして最後は日向ぼり黄色で締める。できる限りでいいので、ライブハウスっぽくチカチカさせて欲しいです」と。

そこで照明の国府田さんからこう言われました。
「朝日昇らせちゃっていいの?もっと踊り明かす時って、朝かどうかもわからないし、それで酔いが覚めた感じしちゃわない?」

「な、、、、、なるほど、、、、」

これは確かにと思いました。
夢の如く終わらせるのか、また次の朝を迎えさせるのか。
これは非常に重要な精神性だと感じます。

そして同時に、これはいろんな技術さんと一緒に作り上げていく作品なんだと、そう感じました。
もっとこうしたほうがいいんじゃない?もっとああしたほうがいいんじゃない?
そんなディスカッションから一つの作品が作り上げられていくのです。

出来上がった次第は、冒頭の動画をぜひご覧ください。

(5) この一年の総括
この一年(2020年)、非常に苦しいことも多かったように思います。
しかし、割とすぐに僕は「今をどう過ごすか」という発想に転換しました。

自分の表現したい世界、これまで練習してきたこと、これを全て詰め込んだ、
いわば2020年の総括のような曲になりました。

大新曲まつりのM Cでも言いましたが、
「手と手は触れ合えなくても、音楽と音楽で心は繋がれる」
本当にそう思ってます。
音楽ってそんな力があるとそう信じております。

この世界を明るく照らすのは、エンタメです。間違いありません。
そして、その力強さ、隣の人を思い合える優しさ、そんなことを和太鼓から学べる気がします。
この長い人生の中で、2020年、コロナで大変な時に、和太鼓を通じて出会えた。
これはまさに、皆さんと一緒に手を取り合って助け合っていく運命の様にも感じます。

たかがエンタメ、されどエンタメ。

明日への一歩を一緒に踏み出しましう。


(6) 今後の展望

さて今回は「和とファンクミュージックの融合」でお届けしました。

今後もこの和と他ジャンルの融合は続けていきたいと思います。
和太鼓というものをより新しく、そして潜ませていく。
そうすることで、和太鼓の居場所をもっともっと見つけていきたいと思っております。

次は、ジャズになるのか、ブルースになるのか、はたまたラテンになるのかサンバになるのか。
僕にもわかりません。

その時表現したいこと、皆様に届けたい思い。
それとマッチした音楽をチョイスすると思います。

ただしどんな時も、和の心、和の精神だけは忘れちゃいけません。
どんな時も、音楽で繋がり、手と手を取り合い、助け合って生きていきましょう。

前後篇合わせて、しめて1万字!笑
ご精読、ありがとうございました☺️

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