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叩かない和太鼓奏者〜僕が舞台に上がらない決意をした日〜 渡辺隆寛

日時:令和3年7月5日
執筆者:渡辺隆寛
タイトル:叩かない和太鼓奏者〜僕が舞台に上がらない決意をした日〜

日本は法治国家で、その最高法規として「憲法」が存在する。
その「憲法」には、私たち日本国民が安全に、安心して暮らしていけるように「基本的人権の尊重」が明記されており、
この「基本的人権」には「自由権」という我々にとって大事な権利が保障されている。

なぜこの「自由権」が重要なのかというと、
その中に、和太鼓奏者にとって一番密接に関わってくる「表現の自由(憲法第21条)」が存在するからなのだ。

とはいえ、この「表現の自由」、
何も舞台上で誰かに訴えかけることだけをを指すのではなく、
自らの考えや思想という内面的なものを、外に出すこと自体を認めており、
その点においては、皆さんが誰かに意見することもまた同様。

そしてこの「表現の自由」
逆説的に「表現しない自由(消極的表現の自由)」も認めています。

そりゃそうですよね。
誰かに強要された意見を拒否するのだって自由です。

さらに深ぼって言えば、「表現しないことが“表現になりうる”」とも思います。

今日、僕がお話しするのは、
僕が和太鼓彩に入って初めて自らの意思で「このライブには出ません」と言ったライブの話をさせていただきます。

長々と法律の話を書きましたが、僕は2年前まで法律事務員をしており、国家試験を受けるまでの勉強をしておりました。笑
今日はそんな法律のお話も少し絡んできます!
(久々に法律の話をすると楽しい〜〜〜)


◆和太鼓奏者の「叩かない」決意

僕が入団して以来、ツアーというツアーを全て参加し続けてきました。
ある種それは、若手メンバーを引っ張っていく覚悟。
学生ながらに、舞台人としての覚悟です。

当たり前ですが、
和太鼓奏者は「太鼓の音で思いや感情を表現する」ことを生業としています。
そんな和太鼓奏者が、「舞台に立たない覚悟」をするのは非常に辛く苦しい葛藤がありました。

なぜそんな決意をしたか。

それは、「法律家になりたい」という夢のためです。
知らない方のために補足しますと、
僕は当時「法律の道で自分のような境遇の子供を無くす」という、
ある種自分自身に足枷のようなものをはめていました。

(このネガティブな感情をポジティブな志に転換したときのお話も寄稿してあります。
宜しければご一読ください😁)
▶︎世界から和太鼓が消えたなら 〜「法律」篇〜
https://wadaiko-sai.com/archives/history/200522

そして、もっといえば僕は「太鼓」と「法律」二つを両立したいとすら考えていました。
そもそも今の社会、昔よりは寛容になりましたが、
自分が何者かを表すときに「一言で表さなきゃいけない」風潮が苦手です。

もちろん分かりやすさはあるのはわかるのですが、
大事なのはその人の与えられたロールではなく、「自分自身が何を成し遂げたいか」という志にあると思います。

いつの日か、
『何されてる方ですか?』
『僕は、“料理”や“お酒”で人を笑顔にする仕事をしています!』
『まあ!素敵ですね!私は、法律を得意としながらも、さまざまな分野で頑張っている方を事務面でサポートする仕事をしています!』

なんて日が来るといいのですが。笑

余談はさておき。
とはいえ、何かを成し遂げるためには時には我慢が必要です。

僕はシンプルに、
ライブの不参加を決意しました。

それが、2016年「ゼンダイミドン」

当時2016年は衝動2を終えて、和太鼓彩の躍進が止まらなかった時。
数多くの新曲や、毎月ライブなど、和太鼓彩の歴史の中でも多くの挑戦をしてきた年でした。

(BEAT)³、Join Us!!、灰燼、Golden March、Liberation、いくぜ!青春応援歌、etc…

その新曲たちは、あげ出したらキリがありません。
全国ツアーも終え、自分の中で自信がついてきた頃にしたこの決断は、
若い頃の僕の“衝動”を強く塞ぎ込みました。

そして何より僕の悪手は、
「本当は出たくて出たくてたまらなかったその思いを誰にも言えなかったこと」です。

誰にも心配させまいと、
ゼンダイミドンの参加を見送ることを、希望をもった意思であるとをわかってもらえるように、ある種明るくご報告しました。

◆響きわたるはずだった僕の「ドン」

和太鼓彩の情報という情報を一切遮断していた僕は、
試験が落ち着いた頃、団体内にアップされた「ゼンダイミドン」のライブ映像を見ました。

そこに立つのは、小川、松谷、一彩、龍史が元気よく叩く姿。

もし仮に、世界が違えば、
僕が叩いていたかもしれない(BEAT)³、
僕が着ていたかもしれない新しい衣装、
僕が笑顔にさせてたかもしれないお客様。

分かりきっていたそんな後悔がどっと押し寄せてきました。

そして同時に、
「僕がいなくても輝く舞台がそこにある」ことへの、
およそ無念さみたいなものを感じたのです。
なかなか、ざっくばらんなヒストリーになってきましたが、過去の自分の青さもいい旨味出してますな。笑笑

ただまあ一方で、俯瞰で捉えるとその流れってのは自然で、
周りも就活をしだす、大学4年生。
学生メンバーの世代交代なんて話もそりゃ各所から聞こえては来るわけですが、
いつまでも立ち続けることができるはずと思っていた舞台と、
そうはいかない現実とのギャップに、若輩者ながら大人の階段がすぐそこまで迫っているんだなと感じました。笑

そしてゼンダイミドンが終わったのが、6月。
試験もほぼ同時期に終え、学生のうちに受験した結果は惨敗。
メンタルズタボロのまま、下半期は気持ちを切り替えて太鼓にも熱を戻していきます。笑

あぁ、こんな生活がいつまで続くのだろうか。

◆ゼロ年代が抱えた悪夢。「ナンバー1よりオンリー1」の残したカルマ。

さてここからは、なべっち節全開で、
過去の自分とこの社会をぶった切っていきます。笑
自己破壊!自己再生!万歳1笑

時とは残酷に早く過ぎ去るもので、また試験の上半期が訪れます。

2017年の春期ツアーといえば、、、そう、「衝動」復刻版ツアーです。

この千秋楽、葛西さんから直々に、
「今回の千秋楽は、今までにない大きさのホールでやる。出来れば大人数で舞台を作りたい。あの、佐藤、矢萩、執行、紺谷、にも声をかけている。できればなべっちに出て欲しい。」

と。

しかし、2017年。
僕はれっきとした社会人。
そして春には試験も控えている。
そして何より、一度決めたことを曲げられない僕の性格。

答えはもちろんN Oだった。

そして何より、僕の無駄なプライドが邪魔をした

それは間違いなく、昨年見た「ゼンダイミドン」がきっかけでした。

バブルが崩壊した90年代。
その残り香の中で生まれ育った僕の世代。

物やサービスは溢れ、バブル期に見た競争社会は悉くその勢いを弱めていた。
そしてその中で育った僕たちは、この歌に夢を見る。

「NO.1にならなくても良い。もともと特別なOnly one」(世界に一つだけの花)

小学校から“かけっこ”がなくなり、
学歴社会とは言いつつも、大学に通うことが主流となった。
政治家は言う。「一番じゃなきゃダメなんですか?」

そしてそれぞれが夢を見る。
―「あなたたち一人一人は特別なのだと」
―「特別にならなきゃいけないのだと」

そんな暗示を思い出すたびに、
「僕はあの舞台で輝くはずだった」、そんなエゴが生まれた。

そしてそんな“不安定さ”を見抜かれ、ついに代表からきついお叱りを受けた。
2017年のまだ暖かくなる前の頃だ。

きっと恐らく、僕が復刻版「衝動」の時に出ない決断をしたのは、
試験や社会人になった環境以上に、この“不安定さ”が生んだ結果だったのかもしれない。

そんなことを思い返すと、
「僕を待っていた人がいたかもしれなかったのに」
「僕がいたら、もっともっと良い舞台を一緒に作れたかもしれないのに」
そんな後悔が湧き上がってどうしようもなかった。

とはいえ当たり前だが、事は必然である。
プロ奏者にならない決意をした。
また太鼓に戻るために、法律への誓いを立てた。
社会人になれば、舞台からは遠のく。

当たり前っちゃ当たり前である。

それでも尚、僕の魂がそれを許さなかった。
「本当にそれでよかったのか?」

僕が僕であるために、舞台に立つ。
そして僕にしかできない舞台を作る。
大勢の一人じゃない、僕は「渡辺隆寛」なんだ。
そんな自分を受け入れるべきなんだと!

いろんな葛藤や悩みを経て、一つブレイクスルーしたのだ。
間違いなく、その前後で人が変わったと思う。

そんな折、代表からこんな言葉をいただいた。
「なべっち、9月から全国ツアーが始まる。衝動2の時くらい大きく打ちたいと思っている。仕事の都合もあると思うけど、よかったらどう?」

この言葉を聞いた時、悩みながらも身体が武者振るいしたのを今でも忘れない。

僕がこの不安定さを乗り越えたことを見抜いてもらえたのか、
また、ライブに声をかけてもらえた。
社会人になってもなお、こうやって声をかけていただけるのは本当にありがたいことでしかない。
そして何より、リベンジのチャンスだと。
僕が和太鼓奏者として、この世の中に一矢報いるチャンスだと!!!

僕の答えは決まっていた。

「是非、やらせてください。」

こうして、一人の少年は、周りの人の力を借りながらまた一つ、
成長するに至ったのだ。

さて、そのツアータイトルが「新世界」になる話は、また別の機会に・・・
ご精読、ありがとうございました✨

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