ツアー「凛」制作秘話〜和太鼓のプロとは何か?〜 by葛西啓之
日時:令和3年8月26日
執筆者:葛西啓之
タイトル:ツアー「凛」制作秘話〜和太鼓のプロとは何か?〜
みなさまこんにちは。
葛西です。
前回のヒストリーにて渡辺隆寛の加入を迎え、プロ2本目となるツアー「解体新書」を終えた和太鼓彩。
本日は、プロ3本目となる伝説の?ツアー「凛」を振り返っていきたいと思います!
時は2013年、秋。
解体新書ツアーを終えた和太鼓彩の面々は、次のツアーの企画会議を行なっていました。
会議の結果決まった公演コンセプトは、「自信と風格」。
プロとしての「自信と風格」を表現するツアーにしよう、という方向で話がまとまりました。
2013年。
この1年間は、和太鼓彩の歴史の中で最も熱く、そして、最も壁にぶつかった1年だったかもしれません。
ただただ太鼓を打つことが楽しく、リスクもなく全員で太鼓を楽しんでいた学生時代。
しかしひとたびプロの世界へと飛び出すと、そこにはアマチュア時代とは全く違う世界が広がっていました。
“プロ”と名乗った瞬間に変わる周囲からの目。
先輩奏者の方々との圧倒的な技術力の差。
一つ一つの演奏でお金をいただくことへの重圧。
そして何より、“太鼓のプロ”という半ば抽象的な、答えの見えないものとの戦い。
そこにはたくさんの壁がありましたが、個人的に一番大変だったのは、最後の一つ。
“太鼓のプロ”という抽象的で答えの見えないものとの戦い、でした。
これは太鼓に限った話ではないと思いますが、世の中には“プロ”というものの基準がない業界がいくつかあります。
音楽や舞台芸術全般はもちろん、サラリーマンの世界でも、「何をもってプロとするのか?」という線引きが曖昧な職種は多数あるでしょう。
そして曖昧すぎるが故に、それに期待することも人によって様々なのが困りもの。
時に、プロとしての技術力を求められたり。
時に、プロとしての舞台演出を求められたり。
時に、プロとしてのサービス力を求められたり。
演奏するたびに、たくさんの方々から「プロなんだからもっとこうした方がいいよ」とか「プロとしてこれは当たり前だよ」とか、それぞれの視点・それぞれの正義から様々なアドバイスをいただく中で、自分たち自身、何を信じればいいのか、何を信じるべきなのかが分からなくなっていった1年間。
一つを取れば一つが取れない・・・
そういった不安定なバランスの中で、「“プロ”とは何か?」という答えのない問いかけにもがき苦しんだのが2013年でした。
そんな中で決まった凛ツアーのコセンプト。
「自信と風格」。
いろんな考え方や意見があるけれど、結局最後に決めるのは自分自身。
私たちが考える“プロ”とは何か?
答えのないプロの世界の中で、我々が信じる“プロのあり方”をしっかりと定義し、「プロ和太鼓チーム・彩とはこういうチームである!」ということを高らかに宣言するツアーにしよう。
その決め・覚悟こそが、”プロ”としての自信と風格に繋がるはずだ。
そんな思いを込めて走り出したツアーでした。
さて、話は少し変わりまして、演目について。
2012年に行った衝動ツアー、2013年春に行ったCOLORSツアー、そして2014年冬に行った凛ツアー。
この3公演を和太鼓彩内では「初期3部作」と呼んでいまして、実はこの3部作で様々な繋がり・仕掛けを持たせていたのです。
例えば「●●ソロ・・・?」という楽曲は、衝動では「山田ソロ・・・?」、COLORSでは「佐藤ソロ・・・?」、凛では「塩見ソロ・・・?」というように、変化していきます。
その他、Beatersでは、「Beaters1→Beaters2→Beaters3」と進化していったり、
第1部の最後の曲は毎回新曲にしたり。
と、3部作全てを見ていただけた方がより楽しめるよう、セトリに共通項を持たせていたんですね。
そしてその中でも大きな仕掛けが、オープニング曲とトリ曲の関連性。
衝動ツアーで1曲目だった祭宴が、COLORSツアーではトリ曲に。
COLORSツアーで1曲目だった●心不乱が、凛ツアーではトリ曲に。
凛ツアーで1曲目だった奏が、衝動ツアーではトリ曲に。
というように、1曲目とトリ曲がぐるぐる回る仕掛けになっているんですね。
さらに大きな見所が、「前作では1曲目だった曲が、次の公演で30分の大曲(トリ曲)になる」というところ。
これは、衝動ツアーで「奏」の30分verを作ったのがきっかけなわけですが、この「奏 30分ver」が思いの外はまりまして・・・
太鼓の楽曲で30分、というコンセプトが個人的には非常に面白かったため、COLORSツアーでも凛ツアーでも、トリ曲を30分近くの大曲に編曲する、という取り組みを続けていました。
というわけで、実はこの凛ツアー、公演コンセプトを決める前から、「●心不乱をトリ曲にすること」、そして「●心不乱を30分近くの大曲に編曲すること」というのは、決まっていたのであります。
かくしてここから約半年間、「”自信と風格”をコンセプトに、●心不乱を30分近くの大曲に編曲して公演を作る」という私のチャレンジが始まったわけでありますが、これがまあ本当に難航いたしまして。。。
おかげさまでこれまでたくさんの公演を作らせていただいてきましたが、間違いなく、一番頭を悩まし、時間をかけ、産みの苦しみを痛感した公演は、この凛ツアーだったと言えるでしょう。
そういった意味でも、とても思い出深いツアーです。
さて、本日はここまで。
次回はいかようにして「●心不乱を30分の大曲に編曲し、自信と風格を表現していったのか」、そしてそれがいかようにして、ご存知「天心不乱」に繋がっていったのかを綴りたいと思います。
どうぞお楽しみに。
ではでは、ばいばい〜。
この記事へのコメントはありません。