伝家の宝刀「チャッパッパ」〜和太鼓×カートゥーン〜 by渡辺隆寛
日時:令和4年6月1日
執筆者:渡辺隆寛
タイトル:「伝家の宝刀「チャッパッパ」〜和太鼓×カートゥーン〜」
ここ最近、自主ライブではやらなくなった曲の一つに「チャッパッパ」がある。
皆様の前でお見せする機会は減ってしまったが、
なんと学校公演では欠かせない一曲として今でも名を馳せている。
この曲、実は和太鼓彩史上最も古い曲だということを皆様ご存知だろうか。
それはなんと約20年前!
前代表葛西が高校生だった2003年まで遡る。
(あ、ちなみに2003年は僕は小学生だったし、尾関は3歳なのである。
そんな頃からこの曲があると思うとそれはそれは末恐ろしい…)
思えば、和太鼓や和楽器においてこのカートゥーン調を用いた表現が多く使われており、
その親和性はもはやこの業界では当たり前のものとなった。
「とかなんとか言って、結構簡単そうな曲だよね〜?」
と思ったあなた。
甘い!!!!笑
これほどまでに、シンプルかつ奥深く、
そして可能性に満ち溢れた曲があっただろうか!!
今日はそんな、和太鼓彩の伝家の宝刀「チャッパッパ」についてお届けしようと思う。
え?ふざけたヒストリーを書くなって?
僕のヒストリーではもはやこの合言葉はお馴染みだろう。
「和太鼓彩はまじめにふまじめ」なのである!!笑
(本ヒストリーで使用した画像の多くは、お客さまが投稿されたものを使用させていただきました。ありがとうございます!)
【彩TIMES】17日目「チャッパッパ」 (和太鼓グループ彩 WADAIKO SAI)
◆「和太鼓」×「カートゥーン」
このチャッパッパ、冒頭にもお伝えした通り、学校公演などでは頻繁に使われている。
その最大の理由が「わかりやすさ」だ。
自虐的だが、
和太鼓や和楽器は、その敷居の高さや、コード楽器をあまり使わないという特性から
「わかりづらさ」が多少なり内包する。
それがある種の芸術性をも産むのだが、そんなこと10代の若者に提供して、
100人が100人YESというかと言われると、そうはいかない。
その壁を取っ払うために、
「カートゥーン」調に落とし込んでわかりやすく届ける手段が生まれたのだ。
「カートゥーン」とはいわば幼児向けのコメディである。
誰が見ても、同じ感想を持つ「わかりやすさ」を出さなければならない。
これはある種「漫才」や「コント」と作り方が似ており、
誰が見ても同じ結論に至るような緻密な計算、伏線が必要なのだ。
しかもそれを「無声」で行うという縛りプレイ付きで…
◆無声の極み「サイレント」
そもそも我々は演奏中に喋らない。
もちろん掛け声などは出すが、なぜここまでサイレントにこだわるのか。
それはひとえに、「音」という表現だけで「笑い」を届ける舞台の妙にある。
サイレント映画といえば有名な舞台人に「チャールズ(チャーリー)・チャップリン」がいる。
よくよく調べてみるとこの方、コメディアンの他に映画俳優、映画監督、脚本家、映画プロデューサー、作曲家と多岐に渡って活躍していたようだ。
そして、チャップリンの演技はなぜかどこを切り取ってもクスッと笑えるおかしさがある。
しかしこれには立派な理由が存在しているのだ。
今回は特別にこれについてお教えしたいと思う。
同じチャッパッパをやろうともこれを知っているといないとでは、笑いに全くの差ができるのだ。
- ①「ロール(役割)」…笑っていい免罪符
我々演者には忘れてはいけないことがある。
「お客さまは我々との距離を測っている」ということだ。
つまりどういうことかというと、
「ここは拍手すべきか」「静かにすべきか」「笑っていいのか」
と、楽しみ方の距離感を常に感じ取っているということだ。
このある種の「前置き」が存在しないと、
お客さまは楽しみ方をわからないまま演目だけが過ぎ去ってしまうことになる。
そこでまずは、「この曲は楽しんでいいんだよ」という免罪符を与える必要があるのだ。
そこで一番気にしなければいけないことは、
「ロール」、すなわち人に与えられた役割なのだ。
チャップリンに置き換えると、
山高帽に大きなドタ靴、ちょび髭にステッキという、
明らかに異質で、かつわかりやすい扮装をしているのだ。
この見た目のおかげで、
誰が見ようとも「この人は笑ってもいい」というロールを与えることに成功したのだ。
我々に置き換えよう。
ここで一番に名が上がるのが、「塩見さん」の存在である。
ちょんまげにパーマという、どこからどう見ても異質な髪型に
「お笑い担当」という「ロール」が最も容易く乗っかるのだ。
これはまごう事なく現代のチャップリンなのである。
果たして、僕といえばどうだろう。
金髪に甘いマスク(自分で言い切った)というルックスにおいて「笑っていいか」というのを判断するには多少材料が弱い気もしている。
そこで利用したのが次である。
- ②カートゥーンアニメーションに学ぶ「表情」と「モーション」
例えばこちらのポパイをご覧いただきたい。
(てか知らなかったんだけど、ポパイの著作権切れてるらしい。)
一度ほうれん草を口にすれば、
ヒロインのオリーブを助けるかっこいいヒーローにたちまち変身するが、
この姿からは想像もつかない。
その理由は、デフォルメされたフォルムなどにも理由があるが、
大きな理由はその「表情」と「モーション」にあると私は考える。
例えば、笑ってるとも怒ってるとも取れる、この目と眉尻。
そしてカートゥーン独特の動き。
気になる方はぜひYouTubeで検索していただきたい。
歩き方ひとつとっても、ありえない歩き方が模写されている。
ただこの、ちょっとした異質さが、またも「笑っていいロール」を与えているのだ。
私はこの二つを大いに取り入れた。
まず「表情」
こちらは、「笑い」とも「にやけ」とも、
そして、ちょっとした「変顔」とも取れる表情を身につけた。
そして、モーションに至っては、この「不自然さ」を出すために、
ドタドタ!と音を立てるような足踏みや、
アクションひとつ一つをよりオーバーにすることに注力してみたのだ。
こういう努力が細部に表れる。
ちなみにこういうのが自然にできるのがWiNGSの東野である。
彼はカートゥーン的な動きに天賦の才が存在する。
- ③「音」ではなく「間」
漫才、コント、トーク。
どれひとつとっても、笑いに欠かせないものが存在する。
それが「間」なのだ。
これはある程度の大人ななら理解してくれよう。
この「間」が演者と観客の呼吸を合わせ、
緊張と緩和を生み出し、この緩和に「笑い」が生み出される。
「間」を産むには「音」が必要であり、
「音」を活かすには「間」を用いる。
これはとても難しいのだが、いい演奏にはいい間があると言っても過言ではない。
◆「笑い」とは「あるある」である。
誰もが笑える笑いには「わかりやすさ」が必要であるという話をしたが、
この「わかりやすさ」とはすなわち、「あるある」や「固定観念」と呼ばれるものである。
この一般的に誰もが認知している事実を、なぞったり覆したりするからこそ笑いが生まれる。
例えば、チャッパッパで用いているネタで言うと、「キャッチボール」である。
そして、「キャッチボール」にまつわる「あるある」とは
・フェイント
・高速ボール
・野球
・高く飛ばしすぎて、天井に引っかかる
などである。
これらの「あるある」はある程度までの演技力を用いればそれぞれが想像力で補填できる。
この「あるある」が我々とお客さまの距離をグッと縮めるのだ。
◆「笑っていい」し、「参加していい」
そして、このチャッパッパの最大の魅力は「参加」できることにある。
コロナ前まではこの天井にひっかっかるギャグでは
お客さまに一緒に飛んでもらいボールを落とす動作をしてもらったり、
キャッチボールも客席に投げたりしていた。
ここで「物理的に」距離を縮めに行っていたのだ。
とても緻密に計算されている。
◆「これからすごいことやりますからねー!!!」
これはチャッパッパ最大の魔法の言葉である。
前述の通り、前半のキャッチボールパートは「サイレント」と「カートゥーン」を織り交ぜ、
笑いのロールを当人たちに植え付けていく。
ここまでの前振りと下準備さえきちんとできれば、後半のすごい事するパートは、
もはや勝ったも同然である。
「これからすごいことやりますからねー!!!」
という、一見ハードルを上げているように見えるこの言葉、
前振りのおかげによって、逆にハードルが下がっているのだ。
あとはそれっぽく何をやっても、なんとなく拍手がくるという無敵ゾーンに突入している。
(言い方。笑)
実際、妙技「餅つき」も「エレベーター」もややテクニックを要するものではあるが、
それが自然と笑いに変わるのはここまでの伏線のおかげなのである。
そして、一番最後の「マトリックス」。
これが実はちゃんと「すごいこと」だったという伏線を回収しておきながら、
最後は相方が「反れない」というオチまでつけている、上げて下げての繰り返しが、
緊張と緩和をうまく生み出し、チャッパッパという楽曲をお客さまの脳裏に深く刻みつけることができるのだ。
一見して、ただのギャグ曲にも思えるこの楽曲にここまで細部にこだわったテクニックがあったのかと思うと、奥深さと趣深さが生まれるが、
執筆しながら「そんな曲だったっけ?笑」とも思う私がいるのも確かだ。笑
とはいえ、このヒストリーを読んでくださった皆様に知っていただきたいのは、
こんな曲でも、阿吽の呼吸や細部へのこだわりが存在するということだ。
これがいわゆる、プロの表現というものであろう。
はてさて、次に皆様のもとへチャッパッパをお届けすることができるのは、
一体いつでしょうか。
ご精読ありがとうございました。
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