意地 by葛西啓之
日時:令和2年11月06日
執筆者:葛西啓之
タイトル:意地
みなさまこんにちは。
葛西です。
2012年8月、初のツアー「衝動」を終えた和太鼓彩。
*詳細は前回レポート(https://wadaiko-sai.com/archives/history/200922)参照
初のツアーを終えた高揚感はとどまることを知らず、私は一週間ほど、特別な想いで過ごしていました。
ツアーを通じて改めて感じた、和太鼓の楽しさ。
抑えようとしてももはや抑えきれない「太鼓への衝動」。
やるなら今しかないんじゃないかー
飛び出すなら、今じゃないかー
2010年に和太鼓彩に復帰して以来、「いつかは」と思って活動を続けてきましたが、「いよいよその時が来たのではないかー」、そんな高揚感に包まれながら、日々を過ごしていたのです。
3年間、十分に悩みました。
もう心は決まっています。
「この人生は、和太鼓彩に賭ける」と。
とはいえ、私も、弱い人間です。
どんなに心を決めても、ふと悩んでしまう時があります。
「本当にサラリーマン辞めて大丈夫かな?」
「本当に太鼓で食べていけるのかな?」
と。
そんな弱い自分と決別するために、ある日私は、1枚の画用紙を取り出しました。
そしてそこに、記しました。
私、葛西啓之は、2013年3月に、株式会社電通を辞め、和太鼓彩をプロ化します。
と。
2012年、9月のことです。
そこからの半年間は、「プロ化」へ向けた最後の調整に入りました。
会社との調整、メンバーへの報告、楽器の購入・・・etc
まずは、メンバーへの報告。
メンバー全員で集まったとある日、「俺は、3月で会社を辞める」ということを話しました。
正直、私にとっては“賭け”でした。
和太鼓彩の演奏スタイルでは、基本的には「ソロ」では活動できませんし、私自身望んでもいません。
あくまで「組太鼓=チーム演奏」が和太鼓彩の演奏スタイルであり、それが楽しいから、私はもちろん、メンバーは和太鼓を続けているのです。
その中で、「俺は会社を辞めて、プロへと飛び出す」という宣言。
これまで幾度となく「プロになりたい!」なんて話はメンバー同士で語り合って来ましたが、全員にとってそれは夢物語で、理想論でした。
誰もが「やれたらいいよね」と思っているけど、誰もがその怖さを前に、一歩踏みとどまっている。
それがチームにとっての夢であるならば、まずは私がその線を越えなければいけません。
正直この時は、他についてきてくれるメンバーがいるのかどうか、分かりませんでした。
もしかしたら全員口では「プロになりたい」と言っているけれど、いざその時になったらその道を選ばないかもしれません。
それでも、私には確信がありました。
全員とは言わないけれど、私が覚悟を決めたら、何人かがついてきてくれるだろう、と。
この会議でそれぞれが何を感じ、どんな未来を思い描いたのかは分かりませんが、ある種、私から全員に「選択をつきつけた」会議だったように思います。
そして、楽器の購入。
これは、プロに飛び出す前に、どうしてもやり遂げないといけないことでした。
ご存知の通り、太鼓は金額的にとても高価な楽器です。
ちゃんとしたものを買うと、1台でウン十万、ウン百万。
それまでは学生のアマチュア団体でお金もなかったので、中古品や知り合いから譲り受けた楽器を使っていたわけですが、「プロ」として活動するのであれば、少なくとも機材は一級品のものを使っていきたい。
特に、プロになって数年は相当お金に苦しむことが予想されるから、サラリーマンをやっているうちに楽器だけは揃えておきたい。
そんな想いがありました。
これはそれまでもぼんやりと脳内で考えていたので貯金をしていたわけですが、
具体的に3月までにいくら貯めて、どの太鼓をどこで買うのか。
その算段をつけ、動き始めたのであります。
そして半年後、最終的には退職金も含め、400万円分、「組太鼓を成立させるための最低限の太鼓」を買い揃えることとなりました。
もちろん皮が破けたりすることはありますが、太鼓は一生モノで、胴は大事に使えば何十年と使っていけます。
この時に購入した太鼓は今でも和太鼓彩の演奏を支えてくれる、大事な仲間となりました。
そして、会社への報告。
10月末ころでしょうか。
初めて上司に、「3月に会社を辞めようと思っています」と話をしました。
結果は、もちろん大反対。
特に、この時の上司が新入社員時代からお世話になっている方だったので、有難いながら猛烈な説得をいただきました。
私も心苦しいながら、そして、何度も迷いそうになりながら、それでも「ここを貫き通さないと後悔する。後戻りしちゃいけない!」と自分自身に言い聞かせ、会社を辞める気が変わらない旨を改めて上司に伝え、その後人事部とも面談を行い、3月末で退職することが正式に決まっていきました。
・・・こうして、自分の人生を変える半年間が過ぎていきます。
今思い返しても、不思議な半年間でした。
もはや、「自分が本当に太鼓をやりたいのか?」とか「会社を辞めていいのか?」とか、そんなことはよく分からなくなっていたように思います。
そこにあるのは、「意地」。
一度決めたからには、貫き通さなければいけない。
和太鼓彩の代表として、一人の男として、ここで逃げたらいけない。
本質的ではないかもしれませんが、そんなことを考えながら、後ろを振り向かず、半ば強引に突き進んでいきました。
メンバーに話し、上司に話し、太鼓を購入したのも、「自分が逃げられなくするため」。
そうやって追い込みでもしないと、やはり「サラリーマンを辞めて太鼓で食べていく」という決断をすることは、そしてその怖さから逃れることはできなかったのです。
兎にも角にも、一回飛び出してみないと始まらない。
その先で後悔するかどうかは、自分次第。
万が一のことがあったら、その時は・・・和太鼓彩と心中しよう。
2012年 。
こうして、私の人生は大きく動き始めました。
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