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月隠作曲秘話②〜「音量」を数値化する〜 by葛西啓之

日時:令和2年12月4日
執筆者:葛西啓之
タイトル:月隠作曲秘話②〜「音量」を数値化する〜

みなさんこんにちは。葛西です。
今回は「月隠(つきごもり) 作曲秘話〜本編〜」をお送りしたいと思います。

「世界で最も音量差のある音楽を作る」というコンセプトのもと、走り出した月隠の作曲。
*詳細は以前のレポート(https://wadaiko-sai.com/archives/history/201020)参照。

どのようにして「音量差」を出すか?

数年来の研究・指導の中で、私には「音量」に関する明確な答えがありました。

きっかけは、2019年にお会いした広島文京女子大学の和太鼓顧問、石井先生との太鼓談義。
2018年に石井先生から「和太鼓彩の奏を使わせてもらえないか」とご連絡をいただき、広島文教女子大学の和太鼓部の皆様に奏を提供したのですが、2019年1月、直接指導する機会をいただき、伺わせていただきました。

その時に石井先生とお酒を酌み交わしながら太鼓談義に花を咲かせたわけですが、その時話にあがったテーマの一つが、「”抑えバチ”を良しとするか、悪しとするか」。

“抑えバチ”とは、バチを下に向けて、鼓面を点でとらえるようにして打つ打ち方、ないしはバチの持ち方でして、広島文京女子大学和太鼓部の皆様はこの”抑えバチ”を非常に多用されていたわけですが、葛西さんはそれをどう思いますか?と質問いただきまして。

<抑えバチ>

私も無意識のうちにこの”抑えバチ”はよく使っていまして、「いや、良いと思いますよ〜」なんて話をさせていただいたのですが、確かに、なんで”抑えバチ”をするんだっけ・・・?と。

創作太鼓では太鼓の迫力、ひいては「大きな音」が最大の魅力とされている傾向があるので、あまり使われることがないのですが、伝統芸能の世界ではこの“抑えバチ”はよく使われています。
能の世界での締め太鼓も、基本的には”抑えバチ”で打たれていますね。
抑えバチで打つとなんとなく伝統っぽい、というか玄人っぽい・・・そんなイメージで私も抑えバチをいたのですが、なぜその打ち方が良いのか、はっきりと説明することができないことに気づいた夜でした。

そして、時を同じくして抱いた疑問がもう一つ。

桐蔭学園和太鼓部やヒーローズクラブの皆様はじめ、指導をさせていただくことが多くある中で、当たり前ですが、「大きい音の出し方」について話をすることも多いのですが、基本的に大きい音を出すときは抑えバチはしないんですね。

抑えバチでは親指と人差し指を支点にバチを握るのですが、大きい音を出すときは、薬指・小指あたりを支点にバチを握っています。
そして、「腕全体を鞭のように使って振り下ろす」なんて説明をよくしていたんですが、改めて、「なんで大きい音を出したいときは、薬指や小指を支点にして、腕を鞭のように使うんだっけ・・・?」と。

<薬指や小指を支点にする持ち方>

指導する時に、あくまで自分の、そして生徒の「納得感」を大事にする私としては、また、前回のレポートの通り、「太鼓を学問にしたい」という思いがあった私としては、このあたりの解明は非常に重要なテーマでして、「”抑えバチ”をはじめとしたバチの握り方や音量のコントロールの分析」に興味を持つようになりました。

そして、1年ほどたいころじいを読んだり、自分で試行錯誤したりしている内に、ある理論を自分なりに構築したのです。

という理論です。

当たり前といえば当たり前なんですが、これ、結構大きな発見だと思うんですよね。

なぜかというと、この理論を正とすると、「和太鼓の正しい打ち方がほぼ全て規定される」からです。

例えば、太鼓を打つ時の支点。
肩甲骨を支点としたり、肘を支点としたり、手首のスナップを支点としたり、チームによって様々な「支点」が存在していますが、「音量=距離」だとしたら、距離を稼げるところを支点に設定しないといけない。
そうすると、必然的に、支点は「腕の根元=肩甲骨」になるわけです。
どんな時でも、「肩甲骨」を支点にして演奏するのが正しい、ということになります。

例えば、腕の上げ方。
これもチームによって本当に様々。
肘を支点にしてバチから先にあげたり、肩甲骨を支点にして楕円を描くようにあげたり。
そこに「正解」は無いと言われ、和太鼓彩の内部でも色々な打ち方のメンバーが存在していたわけですが、音量が加速度に影響されるのだとしたら、肩甲骨を支点にして、より「加速度」がつくよう、腕全体を鞭のようにして楕円を描くように腕をあげるのが正解である、と。
バチから先にあげる打ち方は、この考え方にのっとると、「悪し」ということになります。
(あくまで、この考え方にのっとると、ですが)

そして、バチの持ち方。
音量が距離によって規定されるならば、小さい音を出そうと思った時に、極限まで鼓面とバチ先の距離をゼロにしないといけません。
そうすると、自然と親指と人差し指を支点にした”抑えバチ”を使わざるを得ないのです。
薬指と小指を支点にしてしまうとバチ先があがってしまうため、どうしても鼓面とバチ先との間に距離が生まれてしまいます。
つまり、小さい音を打つ時に”抑えバチ”を使うのは、理にかなっている、と。

一方、大きい音を出す時。
大きい音を出すときは腕全体を鞭のように使って「加速度」をつけるのが良いわけですが、さらに「加速度」を増すには、親指と人差し指でバチを抑えるよりも、薬指と小指で握った方が余白が生まれて、バチ自体に加速度がつけられる。

などなど。

この、『「太鼓演奏における音の大きさ」は、「鼓面とバチ先との距離」ひいては「距離によって規定される加速度」によって決まる』、という仮説にのっとった結果、長年の謎だった「正しい(理想的な)打ち方」というものが、自分の中で一気に言語化できたのであります。

とはいえまだまだ仮説の域を脱してはいません。

個人的にはこの理論の始点である『「音の大きさ」が「鼓面に与える力」に比例する』というところにまだ若干の疑問を持っておりまして、このあたりは一度、どこかの大学と共同研究なんかをしてみたいな〜なんて思っているのであります。
果たして「和太鼓の音量」なんていうマイナーなテーマの研究をしてくれる大学があるのか謎ですが・・・。
いつの日か、そういった方にめぐり会う日が来るでしょう。


そんなわけで、『「音量」とは「鼓面との距離」と「加速度」に比例する(影響される)』という理論を元に、理想的な打ち方を言語化していったわけでありますが、これを進めていく内に、なんとも素敵な仮説に辿り着きました。

そう、

「音量を数値化できるのではないか?」

という仮説です。

音量が距離によって規定されるのだから、距離を決めてしまえば、音量が数字で表せる、ということですね。
それが、最近私がよく使っているこちらの図になります。

どどん!!!

はい、なんともかわいらしい図ですね。
ハチマキはただの遊び心なので無視してください。笑

これまでは「ここは大きめで」とか「ここはかなり弱くていいよ〜」とか、ふわっとしたイメージで曲の音量を伝えており、そのため曲の音量をきちんと共有できていない、ということがしばしばあったのですが、上記図のように、バチをあげる高さによって音量を数値化すると、例えば、「ここは75の高さで打って」とか、「ここは0で」とか、「音量」というなんとも抽象的な概念を数字で共有ができるようになったわけであります。
(もちろん、プラス「加速度」が関わってくるので、実際の音量はこの図の数字の通りではないと思いますが)

おお、これは大発見・・・!!

この理論を応用していけば、大勢で叩いた時に、今よりもっと厳密なダイナミクスが出せるはず・・・!!!

そんな高揚感を感じました。

そしてこの理論を元に、「音量を厳密に規定した楽曲」を作ってみよう!」と思って作ったのが、月隠なのであります。

・・・さて、だいぶ長くなってきてしまいました。

今回のレポートは「月隠作曲秘話〜本編〜」と言っておきながら、全然本編までたどり着きませんでしたね、すみませぬ。。。笑

次回こそ、「月隠作曲秘話〜本編〜」に突入したいと思います!

これらの考え方を分かりやすい形で具現化した新曲「月隠」。
どんな風に具現化していったか、次回きちんと語りますね〜
(あと1回で終わるといいなあ。。。笑)

それでは、ばいばい〜。

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