和太鼓彩と「ソロ」の戦いの始まり〜天真★爛漫作曲秘話〜 by葛西啓之
日時:令和3年5月23日
執筆者:葛西啓之
タイトル:和太鼓彩と「ソロ」の戦いの始まり〜天真★爛漫作曲秘話〜
みなさまこんにちは。葛西です。
2013年4月。
プロ初のツアー「COLORS」に向けて走り出した和太鼓彩の面々。
(詳細は前回のレポート参照 https://wadaiko-sai.com/archives/history/210325)
ツアーコンセプトが決まり、「個性」と「調和」を表現するための曲作りが始まりました。
その中で生まれた楽曲「天真★爛漫」。
本日はそんな「天真★爛漫」の曲作りを振り返りたいと思います。
さて、テーマは「個性」と「調和」。
調和はこれまでの和太鼓彩の楽曲でも色濃く出ていたので、主に「個性」を出すことをテーマに曲作りを始めました。
個性。
それはつまり、「ソロ」を設けるということ。
今でこそ色々な楽曲でソロが入っていますが、実は当時の和太鼓彩は基本的にみんなで同じリズムを叩く集団演奏の形式をメインとしており、「ソロ」を取り入れることは大きな挑戦だったのです。
みんなで同じリズムを激しく叩く和太鼓の集団演奏。
その演奏は迫力があり、見る者の心を震わせます。
まさに、和太鼓演奏の一番の醍醐味があります。
しかし一方で、大迫力の和太鼓演奏は、「自分の非力さを、大きな音を隠れ蓑にして隠すこと」と同義。
和太鼓は音が大きく、また、余韻・響きが非常に強い楽器ですから、みんなで叩いていると自分の細かいミスや一音一音に意識が向かないんですね。
逆に言うと、技術がなくても、経験が少なくても、“大勢で”叩けばなんとなってしまう楽器。
良くも悪くも、それが和太鼓なのです。
そんな集団演奏をチームの強みとして戦ってきた中での、初めてのチャレンジ、「ソロ」。
最初にやった時の感想は、「恐怖」そのものでした。
どれだけ叩いても自分一人の力で出せる音には限界があり、集団演奏に耳が慣れてしまっているので、物足りなく感じてしまう。
その物足りなさを補うための技術もないから、余計力んで、大きな音を出そうとがむしゃらに叩く。
体が力んでるから呼吸があがり、次第に腕もあがらなくなる。
苦しい。
自分がこんなに下手なはずはない・・・
自分の音はこんなに弱いはずはない・・・
「迫力」というベールを剥がされた時に、初めて知る自分の無力さ。
まるで底なし沼にはまったかのような、出口の見えない闇に堕ちたかのような、そんな感覚に支配されました。
恐らく集団演奏に慣れ親しんだ和太鼓奏者であれば、誰もが体験する感覚でしょう。
しかし、今回楽曲の大きなテーマは、「個性」。
仲間に頼らず、自分一人で音を紡ぎださなければなりません。
その個性が集まって帰ってきた時に、これまで以上の「調和」をもった集団演奏が為せるようになるのです。
こうして始まった「和太鼓彩と、ソロ演奏」との戦い。
私からはこの時、メンバーそれぞれに「ありのままの自分を表現すること」を求めました。
プロに駆け出して1ヶ月。
正直、プロとして十分な技術力はありません。
できることといえば、これまで体験してきた自分の人生を信じること。
自分が培って来た価値観、信念を信じること。
この時はただただ、飾らず、おごらず、「ありのままの自分を表現してくれ」と、そうオーダーしました。
そしてそれぞれが持ってきたソロを基軸に、一つの楽曲へと昇華していきます。
これまでの集団演奏ではなかったテクニカルなリズムに挑戦する者。
一人でもなお、音量で勝負に出る者。
はたまた、舞台上で歌い出す者。
まさに十人十色。様々な「COLOR」が舞台上に集まりました。
この「COLOR」を「COLORS」にするために。
「個性」をまとめて「調和」へと昇華するために。
私はすでにイメージを固めていました。
当時TVCMで大流行していた、いきものがかりさんの「ジョイフル」です。
みなさん覚えていますかね?
ポッキーのCMだったかと思いますが、徐々に人が集まってきて、大勢で楽しそうに踊るシーン。
「調和」のシーンでは、ソロを乗り越えたメンバー集結して、さながらお祭りのように溶け合いたい。ぐっちゃぐちゃに叩き狂いたい。
そんなイメージを描き、曲作りに着手しました。
手書きの譜面が、こちらです!
どどん!!!
もともとは「eve」という名前だったんですね。
「COLORS」のセットリストではこの曲の後に「祭宴」が控えていたので、「前夜祭」という意味を込めてeveにしようかな〜と考えていたのですが、
最終的には、「ありのままの自分を表現する」という意味を込めて、「天真★爛漫」にしました。
ちなみに間に入っている「★」は、パンフレット作成時に塩見くんが勝手に入れたものです。笑
いつの間にか正式名称になっていました。笑
さあ、このようにして始まった和太鼓彩と「個性」、そして新たな「調和」との戦い。
集団演奏という隠れ蓑から脱却し、メンバー一人一人が自分自身と向き合う・・・そしてその先に、これまで以上の「調和」を実現する、という大いなる一歩を踏み出した公演、「COLORS」でした。
それでは、本日はここまで。
ばいば〜い。
(追伸)
ここから和太鼓彩は、「”隠れ蓑としての集団演奏“からの脱却」「ソロの追求」を行なっていくわけでありますが・・・この時はまだ、その戦いがこんなにも長く、苦しいものだとは知る由もない葛西青年なのでありました。
2013年から足掛け8年。
私が初めて、自分なりに納得のいく=「恐怖心がなくなり、楽しさへと昇華できる」ソロ演奏ができるようになったのは、実はつい先日、2021年2月27日に行なった彩プラスでのことです。
それだけ、「太鼓」というものは奥が深く、
そして人間は、「一人でいること」「静寂の中にいること」が怖いのです。
“静寂の恐怖”を乗り越えるためにどのような背景があったか・・・またいつの日かヒストリーで語らせていただきたいと思います。
ではでは。
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