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SAI LAND ~奏と篠笛~ by酒井智彬

日時:令和3年5月26日
執筆者:酒井智彬
タイトル:和太鼓の道と教師の道

こんにちは!酒井智彬です。
今回は2018年、六本木泉ガーデンギャラリーにて行われた「SAI LAND」という公演を振り返っていこうと思います!

この公演の特徴はなんと言っても360度ステージ!!

正方形の舞台の周りを客席が囲み、全方向に対して演奏するという和太鼓彩史上初の試みとなるステージでした。
このステージならではの演出を加えた演目も!!
「Be Ready.」・「どんぱぱ」・「大海祭」という曲では、
演者が縦横無尽にステージを移動し、お客様の前に演者が代わる代わる登場しました!

そして、そのステージにはさらに仕掛けが!
ステージの上に乗る雛壇が・・・・

なんと・・・

回るーーーーっ!!

さぁ、そんな特別な演出やステージを駆使し、「楽しいが響きわたる」演奏をお届けさせていただいたのですが、僕はこの公演において、とある楽器とこれまで以上に真剣に向き合うことになり、改めてその魅力に気付かされたのでありました。
そしてその演奏を通し、プロという道(前回ヒストリー:https://wadaiko-sai.com/archives/history/210429)を選んだという責任感や想いを表現するのでありました。


「SAI LAND」公演において、僕が注力した楽器とは・・・

「篠笛」!!

和太鼓彩の演奏には、欠かせない大切な楽器の一つであります。

この「SAI LAND」公演において、僕は「奏」の篠笛パートを担当することになったんです。
これまでの公演では、篠笛パートは先輩が主に担当することが多く、この公演で演奏することになり、とっても責任重大です!
というのもこの篠笛というパートは、主に和太鼓で構成される音楽において、旋律(メロディー)を担当するからです。
普段よく耳にするようなJ-popなんかに例えると、ボーカルのような役割をイメージしていただけると分かりやすいかと思います。

どうでしょうか、ボーカルが下手な曲を聞いていたいと思いますでしょうか・・・

思わないですよね!
旋律を担当する歌や楽器というのはその音楽を良し悪しを握る非常に責任重要なパートなんです。

さぁ、「奏」という曲の篠笛パートを担当するということで、僕の中で篠笛に対する新しい魅力の実感がありました。

それは・・・
篠笛ってこんなにも歌える楽器だったのだと、ひいては、
自分の想いを乗せることができる楽器なんだということです。

というのも、
これまでは、祭宴や日本各地に伝わる民俗芸能の笛を演奏していたのですが、これらの楽曲を演奏する際は、いかに和太鼓や他の楽器に負けないように音を出すかということを考えていたので、叙情的な篠笛演奏はあまり必要なかったんですね。

自分の想い叙情的に吹くというこということをひとつのテーマとし、「SAI LAND」の「奏」に挑戦するのでありました。

さて、叙情的に演奏するといっても、まずはこの演奏にかける想いや気持ちを自分の中で作らなくてはなりません。

僕は、この公演を通して、「プロという道を選んだ覚悟」を演奏で表現しようと思いました。

前回ヒストリー(前回ヒストリー:https://wadaiko-sai.com/archives/history/210429)でも述べましたが、当時の僕は学生と和太鼓彩の活動を両立していた大学4年生であり、次の年度からは他の年長メンバーと同様プロの道に入るという決断したのでした。
そんな後に迎える大きな公演「SAI LAND」。

和太鼓彩に入団してから、たくさんの先輩に支えられてきましたが、プロという道を選んだからこそ、そんな先輩方に食らいつくような演奏をしたい。
「楽しいが響きわたる」という公演のコンセプトの中にそんな自分の想いを忍ばせるのでありました。

さて、想いや気持ちができたら、次は、どう叙情的な篠笛演奏に落とし込んだか。
ちょっと技術的なお話しになるのですが、どうぞお付き合いいただけますと幸いです。

皆さん、気持ちを入れて言葉を伝えようとすると普段と何が変化しますでしょうか。

喋る“間”だったり、声の“トーン”や、表情だったり、と様々な要素がありますが、

ひとつ普段と大きく変わる要素があります。

それは、声の“抑揚”です。

篠笛演奏でも一緒で、気持ちを伝えようとすると音の「抑揚」が変化します。
この抑揚をつけることで、篠笛の演奏がかなり叙情的なものになります。

しかし、この抑揚を付けようとすると現れるのが別の問題です。

「ピッチ」です。
ピッチとは音の高さのことなんですが、篠笛という楽器、非常にピッチが不安的なんですね・・・

笛の唇にあてる位置、息の吹き込み具合、温度や湿度、等々・・・
様々な要因によって、同じ指の音でも、音の高さが若干変化します。

不安定であること、それも大きな魅力ではあるのですが、「奏」というような2人で演奏して、西洋的な音の重ね方をするような楽曲では、非常に厄介な問題です。

強い感情で思いっきり吹き込んでしまうと、ピッチが上がってしまいます。
一方で、弱い表現をしようと思うと、息の勢いも弱くなりますので、ピッチは低くなってしまいます。

この抑揚とピッチを紐付けるのに、大変苦戦したのでありました。

強く吹く際には、笛を内側に巻き、弱く吹く際には、笛を外側に傾けてあげるといったことを瞬時に行っています。

篠笛演奏を見る際には、そんなところに着目しても面白いかもしれません(笑)
顎を引いたり出したり、首の角度が変わったりと、試行錯誤しています(笑)

さて、抑揚とともに叙情的な笛を吹くことにおいて、もう一つ欠かせないのが音の「揺れ」です。
ビブラートとも言いますね。
同じ音を伸ばす際に、少しだけ音程を揺らす技法です。

この技法を使うと、音の響きを変化することができるので、目立たせたい音の強調し、より印象的な演奏をお届けすることができます。

これがなんとも難しく・・・
感覚的には、笑っている際のお腹の動きが連続するような感じなのです。
なんともマニアックな話ですね(笑)

叙情的な笛の演奏をお届けするために、「抑揚」・「ビブラート」というような技術と向き合い、「奏」という曲をお送りさせていただきました。


そして迎えた本番。

奏の冒頭。僕の笛ソロから始まります。
360度、メンバー、そしてお客様に囲まれ、逃げ場なんてありません。

プロという道を選択した覚悟、

お客様に楽しいお時間を過ごしていただきたい、

そんな想いを笛に込め、「奏」のという演目が幕を開けます。

僕の目の前には、和太鼓のたくさんの魅力をお教えくださった葛西さん。

背中には、共に旋律を作り上げる齋さんや大太鼓を打つ岡本さんや萩原さん。

僕の視界に映る、高校からの太鼓仲間で松谷。

さらには、大学で出会い、和太鼓彩の活動にもついてきてくれた牛道。

たくさんの仲間とともに、音を紡いでいきます。

会場の熱気とともに奏はクライマックスに。

この奏を通して、叙情的な表現という篠笛の新たな魅了を実感したのでありました。

この時の演奏があったからこそ、1年後の東京国際フォーラムでは「さざなみ」・「歩み」といった楽曲での表現の幅が広がったと言っても過言ではありません。

伝えたいメッセージを音で表現できるよう僕は歩みを続けます。

一緒にその歩みも楽しんでいただけたら嬉しいです!

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