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月隠作曲秘話③〜曲作りとは人生也〜by葛西啓之

日時:令和3年2月8日
執筆者:葛西啓之
タイトル:月隠作曲秘話③〜曲作りとは人生也〜

みなさんこんにちは。葛西です。
2回にわたってお送りしている「月隠(つきごもり) 作曲秘話」。

いよいよ!今回こそは!
「月隠 作曲秘話〜本編〜」をお送りしたいと思います!笑

*前2回のレポートは下記をご覧ください。

・その1 〜イタリアでの出会い〜編
https://wadaiko-sai.com/archives/history/201020

・その2 〜「音量」を数値化する〜編
https://wadaiko-sai.com/archives/history/201204

さて、その1では「太鼓を学問にする」「太鼓演奏において最も重要な要素は「音量差」である」ということに気づき、
その2では、「太鼓の音量とは、鼓面との距離と加速度に比例する」という理論を元に、「音量を数値化する」という試みを行ってきた葛西青年(おじさん?)。

いよいよ、これらの気づきを形にし、皆様に感動をお届けする音楽を作り上げるために、具体的な曲作りへと入っていきます。

コンセプトは明白。
世界で最も音量差のある楽器・和太鼓を使って、世界で最も音量差のある音楽を作ること。
そのために、小節ごとに音量を数値で規定して進行していくことにしました。

この、「音量の数値化表」がこちら。

ででん!!!

いや〜なんとも素敵な表ですね。
恐らく、「小節ごとに音量で表す」というのは世界初の試みなんじゃないか?
と勝手に思っております。笑

さて、続いての問題は、「どんなリズムを打つか?」。

ここは至極悩みました。
今回のコンセプトが「音量差」にあるので、「どんなリズムを打っているか」は正直、さして重要でないんですね。
リズムが何であれ、音量差を感じられれば良いわけですから。

ということで、今回は聴く人にあくまで「音量差」に着目していただくために、リズムを極力シンプルに。
3つのみに絞ることにしました。

そう、月隠は7分程度の楽曲ですが、なんと7分間の間に、リズムが3つしか登場しないのです・・・!!

続いて、リズムの中身。
ここもなかなかに悩みましたが、参考にさせていただいたとある楽曲があります。
お気付きの方もいらっしゃるかもしれません。

そう、「ボレロ」です。

私昔から「ボレロ」ってすごい好きなんですよね〜。
スネアの超絶ピアニッシモから始まる緊張感がたまりません。
さらによくよく調べてみると、ボレロには「一人の踊り子が酒場で踊っていて、次第に興が乗ってきて、大勢の人が参加する」というストーリーがあるとのこと。
まさに、「楽しいの伝播」。
なんとも素敵なお話ですね。

そんなボレロの空気感を拝借し、基本リズムには3連符を採用しました。

そして、さらにもう一点ミソが。

「音量差」を出すための曲構成として、「最初はリズムがバラバラ。最後の最後だけ全員がユニゾンする(同じリズムを打つ)」というアイデアが頭の中にありまして、それを再現するために、葛西の締太鼓と塩見の大太鼓はずっと4拍子、
他のメンバーは3拍子、というなんとも摩訶不思議な感じで進行していきます。
12小節ごとにリズムが噛み合っていくわけですね。

<葛西のリズム(4拍子)>

<他メンバーのリズム(3拍子)>

「人によって拍子が違う」というのはメンバーもなかなか慣れていないので、合わせるのに大変な時間を要しました。

そして、最後の6小節だけ、全員が同じリズムを打ちます。
初めてここで全てがかみ合い、最大音量でドカーーーンと打つわけです。
この時の音量・音圧・迫力たるや。
これまで時間をかけてバラバラなリズムをじわじわと打ってきた分、この6小節のインパクトは相当なものになっているのではないかと思います。

<最後の6小節>

さあ、これでほぼほぼ完成・・・なわけですが、最後にもう一つ、スパイスを加えました。

それは、「間」です。

「間」とは何か。
これは私が和文化を勉強する中で常に出てきたテーマであり、また、なかなかに規定することが難しいテーマなわけですが、私なりの解釈をお伝えすると、「不規則性」「非日常性」なのかな、と。
はたまた「運命」とも言えるかもしれません。

音楽に限らず、人類は常に「より規則的に、一定に」生活を営めるように進化を続けてきたわけですが、どんなに安定を求めても、「生まれてから死ぬまで一定」ということはありえないわけです。
地球も、自然も、人間も、規則的な活動の中に不規則な何かを含んでいます。

それが自然災害のように人間にとってマイナスなこともあれば、誰かとの運命の出会いのように、めちゃくちゃハッピーなこともある。
振り返ってみればいいことも悪いことも含め、そういった「不規則な何か」があるからこそ人生はより豊かになり、結果、生命も地球も、永続的に活動を持続していけるのであります。

こういった、人生における不規則な出来事。
これまでの既定路線を逸脱するような運命的な出来事が、私の考える「間」ですね。
規則的に進んでいるかのように見える時間の中で、ちょっと立ち止まって、次に進むべき方向性を考える時間、余白。
それが「間」と呼ばれるものなのではないかな、と。

そしてなぜか、日本人はこの「間」の感覚が強いらしいです。
島国で自然災害が多く、元より規則的な生活を営むことが難しかったからなのか、はたまた、他に理由あるのか・・・
そのあたりは私もまだまだ勉強中ですが、とにもかくにも、「間」とは、日本文化を象徴する最大の要素であるのです。

今回の楽曲は音量を「数値化」し、ボレロを元にした3拍子のリズムに則り、基本的には「西洋音楽的」に、規則正しく進んできたわけでありますが、せっかく和太鼓で演奏するのだから、日本的な要素も入れたいな〜と。

そこで、曲の随所に「間」を取り入れることにしました。

厳密には、音量が大きく変化するタイミングで入れています。

これまである規定の音量で規則的に進行してきたものが、「間」を受けて、次の方向性・規則性を定める、といったような感じです。

まさに、規則的な流れの中で時に立ち止まり、様々な取捨選択をして新たに歩みを進めていく人生のように。

これにてようやく、新曲「月隠」が完成を迎えました。

・「世界で最も音量差のある音楽を作る」というコンセプトのもと、
・「音量を数値化」し、
・3拍子と4拍子の複合リズムで進行しながら、
・時に「間」が入り、
・最後は全員が最大音量で同一リズムを打つ

という曲が、「月隠」という曲なのであります。

ちなみに「月隠」という曲名は、塩見くんがつけてくれました。

彼がこの曲を聴いた時に、「月が隠れているくらい真っ暗な夜道をひたひたと進んでいるよう」な印象を受けたとのことで、このタイトルをつけたそうです。
なかなか味があり、私も気に入っております。

さあ、3回にわたりお送りした月隠 作曲秘話。
いかがでしたでしょうか?

こうして改めて書いていると、一曲一曲の中に、自分の人生の様々な出来事が含まれ、影響を受けていることが分かります。

これからもたくさんの経験をして、そしてそれを、「和太鼓の楽曲」という形で世の中にお届けしていきますので、どうぞ皆様、次の楽曲もお楽しみに。

ではでは、本日はここまで。
ばいばい〜。

(追伸)
新曲「月隠」も収録された公演「Maple in your room」がDVDになって登場!
「Sunflower in your room」「Edelweiss in your room」と3枚組。
ぜひこの機会にご覧ください〜!

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