和太鼓彩ツアー「凛」制作秘話3〜離れていても心は一つ〜 by葛西啓之
日時:令和3年10月26日
執筆者:葛西啓之
タイトル:和太鼓彩ツアー「凛」制作秘話3〜離れていても心は一つ〜
みなさまこんにちは。
葛西です。
さて、前回、前々回と、2014年に行った凛ツアー、の模様を振り返ってきました。
(前々回 https://wadaiko-sai.com/archives/history/210826)
(前回 https://wadaiko-sai.com/archives/history/211001)
「自信と風格」をテーマに、「静・柔」の表現を開拓する、
そしてそのために、「女形」に挑戦する。
以上のコンセプトがみえてきました。
いよいよ今回は、凛ツアーのトリを飾る大曲「天心不乱」の制作秘話に入っていきたいと思います。
問題は、「どのようにして「女形」を演じるか」という点。
私たちにとっては初めての挑戦で、引き出しがないわけですから、いきなりある曲を「女形っぽく演じる」といっても、大変に難しいわけであります。
そう、もっとこう、感情移入できるような何かがあれば・・・
そこで思い立ったのが、「和太鼓で物語を表現する」という手法です。
実はこれ、以前から構想としてはありました。
私は大学時代に演劇を経験していたことがありまして、「物語を演じる」というのがとても好きなんですね。
(https://wadaiko-sai.com/archives/history/190422 参照)
ミュージカルなんかもよく見に行っておりました。
最大の魅力は、やはり見ている人が感情移入できること、でしょうか。
音楽だけだと曲の質や音楽性、そういったものに目が行きがちですが、演劇は、2時間を通じて感情の起伏、ストーリーをお届けするもの。
そういった意味で、「いつか和太鼓で劇を作ってみたい」そんな思いは、心の底にずっと持っていたのであります。
そして今回の凛ツアー。
「女形」というなんとも難しい役柄を演じるにあたり、演者が感情移入できるように物語を設定してはどうか?
そしてそこに自然な形で女形を投入すれば、お客様も自然な形で舞台に入ることができるのではないか?
そう思い立ったわけであります。
では、どんな物語を入れようか・・・?
一から脚本を書くのは現実的ではないから、ありもののストーリーをお借りしよう。
ロミオとジュリエット?
いやいや、和太鼓とかけ離れているし、、、
竹取物語?
うーん、なんかありな気もするけど、ピンとこないなあ、、、
(ちなみにこの時妄想した竹取物語は、2020年に別の形で演じることになります)
悩んだ末に出てきた答えは、「七夕物語」。
彦星と織姫の伝説です。
彦星のシーンを、和太鼓彩らしい男の力強さで。
織姫のシーンを、女性らしいしなやかな動きで。
天帝の怒りを大太鼓で。
そして天帝の怒りを受けて彦星・織姫が嘆き哀しむ様を、●心不乱に繋げていこう、と。
私の中で全てのピースがはまった感覚がありました。
和太鼓彩らしい男らしさも、今回チャレンジする女形も、そして和太鼓らしい迫力も、この物語に沿ったら全て表現できそうだ、と。
今回の演目は彦星と織姫が引き裂かれて終わるから、七夕の真裏にあたる1月に行うのもある意味良いじゃないか、と、時期性の問題も個人的にはクリアし、創作を進めていきました。
まずは、彦星のシーン。
ここはあまり迷わなかったように思います。
なにせ、和太鼓彩的には一番得意なところですからね。笑
男らしい筋肉質な体の持ち主で、肌も黒めな執行・佐藤・齋くんに担当してもらい、リズムは単調めで、そのリズムを大きな振り付けて力強く打ちます。
続いて、一番重要となる女形シーン。
ゆったりとしたリズムにゆったりとした妖艶な笛の音を重ねて曲を構成していきました。
悩んだのは、「誰に女形をやってもらうか?」
最終的には、肌が白く、中性的な顔立ちの山田・紺谷・渡辺、の3人に演じてもらいました。
何よりも重視したのは、「打ち方」。
以前ヒストリーでも書きましたが、太鼓って本当に色んな打ち方があるんですね。
(https://wadaiko-sai.com/archives/history/201204 参照)
薬指・小指を軸にバチを持ってパワーで打つ人もいれば、
親指・人差し指でバチを持って、しなやかに打つ人もいます。
で、女形で重視したのは、後者。しなやかに打てる人を選びました。
特に紺谷に関しては体型的に(笑)賛否両論ありましたが、実は紺谷くん、この「しなやかな打ち方」というのがとても上手いんですよ。
大きな体とぶっとんだ性格(?)の割に、とても繊細な太鼓を叩くんですね。
そんな打ち方を重視し、紺谷くんも女形にチャレンジしてもらいました。
渡辺くんに至っては、なんとデビュー後これが初の大型ツアー。
初の大型ツアーで「女形に挑戦して!」って、これまた驚きはいかほどのものだったのでしょうか。。。
でも、彼にとっても、あの独特のしなやかな打ち方はこのツアーで山田・紺谷から教わったものなんじゃないかなぁ、なんて私的には思っています。
とんでもないチャレンジをしてまた一つ大きくなっていく渡辺少年なのでした。
うん、渡辺少年よ、結構様になってるじゃないか。
そして天帝。
天帝は何も悩まず、矢萩くんに即決。笑
彦星と織姫を引き裂くほどの迫力、圧倒的な存在感、という意味では、当時のメンバーでは矢萩くん以外にありえないですね。
ここのリズムですが、これがちょっと面白くて、実は、もののけ姫の祟り神が登場するシーンの音楽を参考にしています。
と、いいますのも、「シャッフル」というリズムってあるじゃないですか。
「ドッコドッコドッコドッコ」という、跳ねる系のリズムですね。
(これについて詳しく書き始めるとめっちゃ長くなってしまうので割愛しますが・・・)
で、シャッフルって割と「楽しい音楽表現」の時に使われるんですよ。
聴いていて体が乗ってくるというか、気持ちよくなてくるというか、そういうリズムなんですね。
でも、もののけ姫を見ていて驚いたのが、なんと祟り神が出てくるめっちゃ緊張感あるシーンの音楽で、シンバルをシャッフルで叩いて地打ちを構成しているんですよ。
うそやん!と。
そんなシャッフルの使い方あるんか!と。
さすが久石譲先生、目の付け所が違いすぎます。
しかもその「シンバルのシャッフル」が、めちゃくちゃ聴く側の恐怖感を高めるんですね。
そんなシーンを参考に、天帝が登場し彦星と織姫を引き裂くシーンでは、「シンバルのシャッフル」をベースに構成しました。
なかなかこれまでの和太鼓彩音楽にはないチャレンジになったかと思います。
言い忘れておりましたが、葛西・塩見・萩原・春日の4名は、本曲全編を通じて「黒子」をやっております。
葛西はセットとシンバル。
塩見は雨の音や風の音、ドラなどの効果音。
萩原は篠笛。
春日は低音。
というように、この4名で物語をつなぐ黒子としての役割を担いました。
これも和太鼓彩としては初めての挑戦で、とても面白い演奏でしたね〜
そしていよいよ、クライマックス。
引き裂かれた彦星と織姫が天帝に反抗しながらも、嘆き悲しむシーンですね。
ここは、リズムとしては「●心不乱」を採用する、と決めていたので、そのリズムをもとに制作しました。
もともとこの「●心不乱」は3つのパートに分かれているので、それをあてはめていった形ですね。
それズムを彦星用(より男らしく)、織姫用(より女性らしく)、天帝用(よりおどろおどろしく)、に編曲しました。
・・・以上が、「天心不乱」の全貌です!
いや〜〜〜長かった!笑
こうして、30分の大曲「天心不乱」は完成を迎えたわけであります。
前回のレポートでも書きましたが、本当にこの楽曲、そして凛ツアーは、私の創作活動の中でも1,2位を争うほど迷いに迷ったツアーでして、「産みの苦しみ」を心から実感した曲であります。
それでもこうして、8年ぶりに本ツアーの創作活動を振り返ってみると、なんともいえない愛情が湧いてきますね。
きっとこれからも、その時その時の状況や心境に応じて色々なものを苦しみながら、そして楽しみながら生み出していくことでしょう。
その一つ一つが誰かの心を揺るがし、心に残るものとなっていけば嬉しいです。
大曲「天心不乱」、そしてわずかばかりの「自信と風格」を携え、亀有・藤沢・つくば、と3公演へと向かっていった和太鼓彩なのでした。
<おまけ>
最後に、「天心不乱」という曲名について。
もともとこの曲は「三心不乱」という曲でしたが、その時その時によって演奏する人数が違うため、演奏人数によって曲名が変わっていました。
「四心不乱」とか「五心不乱」とか。
で、今回の凛ツアーでは演者は11人いるわけですが、「十一心不乱」というのは、なんとも収まりが悪いなあ、と。
そこで浮かんだのが「天」という文字。
もともとこの「三心不乱」という曲は、3人の演者が一糸乱れず心を一つに演奏する、という意味を込めてつけたタイトル。
今回は「天」という文字に彦星と織姫の心を映し、「たとえ引き裂かれようとも、2人の心は一つ」という意味を込めて、「天心不乱」というタイトルにしました。
手前味噌ですが、なんとも素敵なタイトルですよね。うむ。
そんな思いが、塩見くんが作成したパンフレットにも書かれております。
ではでは、今日も長くなってしまいましたがこの辺りで。
ばいばい〜
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