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「ハレのちユキ」(上)-新たな和太鼓公演の形 by塩見岳大

日時:令和4年4月22日
執筆者:塩見岳大
タイトル:「ハレのちユキ」(上)-新たな和太鼓公演の形

この記事をお読みいただく前に下記の記事を先にお読みいただけると幸いでございます。

・彩座発進!-新たな和太鼓公演の形-
https://wadaiko-sai.com/archives/history/220203
・「ハレのちユキ」-新たな和太鼓公演の形-
https://wadaiko-sai.com/archives/history/220226
・鼓劇を作る -新たな和太鼓公演の形-
https://wadaiko-sai.com/archives/history/220324

12月24日、ムーブ町屋。
シャッフルライブ当日を迎えた僕は、
自分で言うのも何だが、珍しく緊張していた。

皆で作り上げてきた鼓劇をいよいよ発表することが出来る、
という胸の高鳴りと共に込み上げてくる緊張感には理由がある。

鼓劇はいつも行っている公演と比べて台詞が多いのだ。
和太鼓の公演では考えられない台詞量を暗記する。
繰り返し練習を行ってきたが、本番でトんでしまう不安は拭えない。

和太鼓の演奏は何百と経験してきたが、
舞台上で決まった台詞を喋った時間はその千分の一にも満たないだろう。

同時に他のメンバーの緊張感も伝わってくる。
入団一年目の琉生加であれば尚更緊張しない方がおかしい。
皆、直前まで台詞を反芻していた。

楽しい演目を披露する上で、緊張しすぎても仕方がないと思い、
楽屋で演技のリハーサルを行った。
そのリハーサルを行って、僕は改めて今回のメンバーが非常に鼓劇に向いている事を理解した。
皆、演技が始まるとどんどんと役に入っていくのだ。
緊張感を抱えた和太鼓奏者から、
物語の中のキャラクターへと変身していく。
積み重ねた練習時間がそれぞれの人間にキャラクターを染み込ませたのだ。

これならば舞台中に台詞がトんだとしても、
自然な振る舞いができるような気がした。

そして僕達は本番を迎えた。

鼓劇「ハレのちユキ」はハレの日の神様がハロウィンパーティを楽しんでいるところから物語が始まる。

祝い事が大好きな彼らはついついハメを外してしまい、
七日七晩かけて神界各地で飲み歩く、
という人には成せない次元の大豪遊を行う。

神様というどれだけ偉い人(人じゃないけど)であっても、
彼らの人生を豊かにするための娯楽は無くてはならないものであり、
その道のりを楽しむ事こそが神様という仕事を何百年も続ける秘訣なのだ。

人智を超えた神様はきっと遊び方も人智を超えているのだろうな、
と想像を膨らませたたりしてみた。

このハロウィンパートでは渡辺が制作した楽曲を用いて、
神達が華々しく遊んでいる様子を表現した。

そして七日後、目を覚ますと神達はクリスマスボーイ(琉生加)の家にいた。
酒を飲みすぎたせいで家に辿り着くまでの記憶はあやふやだ。
一同が激しい二日酔いに悩まされていると、
サンタボーイが悲鳴をあげた。
先代クリスマスの神様から引き継いだ、神聖なサンタ帽が見つからないと言う。
そのサンタ帽が見つからなければ、人間界にクリスマスは訪れない。

困ったクリスマスボーイ(琉生加)は、神様達と共に家内の大捜索を開始した。

ここで演奏したのが大海祭(三個打ちver.)。
大海祭の左右に腕を突き出す振り付けや、
三個打ちで左右に首をふる様子が、
物を探す動作に似ている事から着想を得て、
物語に合うように演目を編曲した。

激しく和太鼓を叩くそばで紛失物を探し回るという、
和太鼓で喜劇のような世界に挑戦した一曲だ。

大捜索も虚しく、サンタ帽は見つからない。
そのため、七日前に飲み歩いた神界各地を皆で一緒に探し回る旅に出ることになった。

一行はまず最初に酒を飲んでいた場所、ハロウィンタウンへと向かった。

ここはハロウィン小僧(渡辺)のホームタウン。
ところが当のハロウィン小僧はペロペロキャンディを紛失していたため、
ペロペロキャンディ欠乏症に陥ってしまい暴走状態へと突入。
皆はそのハロウィン小僧に振り回されつつも、
そんなトラブルさえも楽しんでしまうのが、
懐の広い神様達なのだ。

その様子は東野が制作した、
怪し楽しい楽曲を用いて表現した。

結局、ハロウィンタウンではサンタ帽が見つからなかったため、
舞台は次の場所、勤労島へと移っていく。

ここは勤労閣下(塩見)が治める島で、
入島した者には労働の義務が発生する。

労働を続けながらサンタ帽を探す神様一行と、
そこでは社長と呼ばれている勤労閣下であったが、
勤労閣下は普段不真面目過ぎる神達への怒りを爆発させてしまい、
彼らに過酷な労働を強いてしまう。

その過酷な労働の様子は、
自らで自らの身体を限界まで追い込む楽曲、五心不乱で表現した。

激しさや必死さなどの表現は和太鼓という楽器の得意とする分野だと、
個人的に改めて実感した。

しばらく過酷な労働に耐えていた神達だが、
サンタ帽を探しても探しても見つからなかったため、
目標を次の場所へと切替える事にした。

しかし、鬼社長モードとなってしまった勤労閣下には話が通じない。
そんな彼が治める勤労島から脱出するために彼らは一計を案じた。

勤労感謝の日に社長(勤労閣下)をおだてて太鼓を叩かせ、
疲れた隙に逃げ出すという計画は見事成功し、
一行は次の場所へと向かう。

この時に演奏したのは祭宴という楽曲だ。
この演目ではソロ演奏を順々に行うシーンがあるのだが、
和太鼓彩では時々、特定の人物のソロを終わらせないという行為を行う。
具体的には、ソロ演奏が終わった瞬間に「まだまだ!」「もっともっと!」と言った掛け声をかけて、ソロ演奏を終わらられない空気を作り出すのだ。

これはソロ演奏者が誕生日だったり、
久しぶりの出演だったり、
祝われる立場にある時に行われるサプライズのようなものだ。

このシチュエーションを作り出す時、そこにあるのはメンバーの悪意ではなく愛情に他ならない。
だからこそソロ演奏者はその愛に応えたソロを続けなければならないのだ。

今回はそれを物語の中に組み込んでみたが、
この独自の文化は個人的にとても面白いと思っていて、
いずれまた別の形でもスポットを当ててみたいと思っている。

勤労閣下(塩見)をおいて、
勤労島から脱出した一同は正月ランドへと向かった。

ここでも帽子を探していた一同だが、
正月ランドの地下に眠る大雷龍と出会ってしまい、
戦いを余儀なくされる。

この大雷龍というのは、
和太鼓彩が頻繁に演奏する演目「大雷山」を具現化して龍にしたものだ。
一同は大雷山を演奏しながら龍と戦うものの、劣勢を強いられる。

そこで起死回生の一手として、正月入道(東野)が暴れ天狗を召喚し、
天狗VS龍の熱い戦いが始まる!

因みに「暴れ天狗」はWiNGSの代表曲の内の一つで、
東野が作曲したものだ。めちゃくちゃ良い曲です。
戦いに相応しい激しさを内包した演目の上、
大雷山とBPM(テンポ)が近かったので、
合体してもらうように東野へお願いした。

安定と信頼の良編曲を経て、本番の形に仕上がったわけでございます。
東野の口上も見事!

演奏はバッチリ仕上がったのだけど、
物語上では最終的に一同は大雷龍に敗れてしまう…
練習中にどんどんクオリティが上がっていくこの演目を見て、
「あれ、この勢いなら大雷龍倒せそうじゃね?」
とは思いもしたが、
一同は大雷龍に敗れてしまうのです…

そこで救いにやってきたのが勤労閣下(塩見)!
伝説の眠り琴によって大雷龍を見事に眠らせてみせるのだが、
引き換えに一同、そして勤労閣下自身も眠ってしまうのであった。

一同が目を覚ましたのは、
人間界がクリスマスイブを迎えた日だった。

夜までにサンタ帽を見つけ出さなければ、
人間界にクリスマスがやって来ない!

いよいよ尻に火が点いてしまい絶望するクリスマスボーイ(琉生加)だが、
バレンタイン卿(宇田)がバレンタイン宮殿にサンタ帽があるという情報を手に入れる。

一同は急ぎ、バレンタイン宮殿へと向かった。

バレンタイン宮殿には確かにサンタ帽があった。
しかしそれは宮殿内で一番の美貌を競う、
Mr.バレンタインコンテストの景品になっていた。
どこかに落ちていたサンタ帽をコンテストの主催者が買い取って景品にしたと言う。

一同はなんとかして、
主催者からサンタ帽を返してもらう方法を考えるが、
バレンタイン卿(宇田)はその必要はないと言う。

何故ならバレンタイン卿(宇田)こそがこのコンテストを連覇し続けている、
美しき愛の伝道師であるからだ。

ここでは宇田が渾身のソロを披露してくれた。

下打ちもない中、
一曲丸々ソロを演奏するというのは宇田としても初の試みで、
かなりの苦悩と葛藤があったようだ。
しかし、しっかりとそれを乗り越えて仕上げてくれた。
それも僕が出した難易度の高い「愛」というお題に応えてくれた上でだ!

音楽で愛を表現すると言えば、
それはありきたりなテーマのように聞こえてしまうかもしれませんが、
その楽器が和太鼓となった瞬間にハードルがグッと上がるように思う。

愛を表現する上で使用されがちな表現方法、
優しさや、雅さ、切なさ、は和太鼓の得意とする表現方法ではないからだ。

しかしそんなハードルを華麗に超えてくれるのが、
宇田という男でございました。

今回の公演ではメンバー皆各々に異なったハードルが設けられていたと思います。

そして各々がそのハードルを飛び超えてくれたからこそ、
公演は完成し、バレンタイン卿はサンタ帽を手に入れる事が出来たのでした。

長くなってしまったので一旦この記事、
【本番!「ハレのちユキ」(上)-新たな和太鼓公演の形-】
はここで区切らせていただきます。

長い旅路の果て、ついに手に入れたサンタ帽。
しかし、彼らがそれを手にした時、
真実の扉が開かれる!

次回!【本番!「ハレのちユキ」(下)-新たな和太鼓公演の形-】
お楽しみに!

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